7月23日、厚生労働省の元医系技官を含む医師2人が逮捕された、嘱託殺人事件。容疑は、2019年11月に京都在住の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に頼まれ、薬物を投与して “安楽死” させたというものだ。医師2人は、SNSを通じて女性とやり取りを続けていたというが、詳しい経緯は不明のままだ。
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「頼まれて殺人を犯す」という心理は、いったいどのようなものなのか。想起されるのは、現在、立川拘置所に勾留されている「座間連続殺害事件」の白石隆浩被告(29)だ。
白石被告は2017年、SNS上で「死にたいと思う人の手助けをする」という名目で次々と誘い出すなどして、座間市内で9人の男女を殺害した罪などで起訴された。9月30日に初公判が控えている。
本誌が接見に訪れた日、面会室に現われた白石被告は、拘置所で貸し与えられた緑の半袖シャツに緑の短パン姿。髪は肩まで伸び、マスクの脇から髭が見え隠れしていた。
「ここのところ、毎日のように記者が面会に来るんですよ。若い女性の方が来ると、テンションが上がりますね」
取材に同行した本誌女性記者を見てそう話し、余裕すら感じさせる白石被告。
「京都の嘱託殺人事件については知っています。どれだけ頼まれたのだとしても、(医師2人が)やったことは犯罪ですよ。許されないことでしょうね。なんで、あんなことやっちゃったのか……」
「意外」と言っても、いいのではないだろうか。白石被告は記者の前で、医師らの行為を否定した。だが、その理由は不可解なものだった。
「私からすれば、もったいないんですよ。だって医師の仕事は、収入も社会的地位も高い。でも、これで医師免許も剥奪されてしまうでしょう。
(女性患者から)何千万円もの報酬をもらっていたのなら、まだわかりますが、報道によれば、医師が受け取った謝礼は、たった130万円程度ですからね」
白石被告は、安楽死そのものについては、以前から興味を持っていたようだ。
「海外には、合法的に自殺幇助をおこなう団体があります。また以前、痛みに苦しむ白血病の患者を医師が殺してしまう、という小説を読んだこともあります。でも日本では、それらは違法行為です。やるべきではないのです」
「頼まれて殺人を犯した」という今回の事件について、彼の凶行と共通点があるように見えると指摘したところ、「まったく違う」と反論した。
「僕の起こした事件は、ただの快楽殺人なんですよ。嘱託殺人じゃない。僕にとっていちばん大事なのは、カネでした。女のコをまず口説いてみて、カネになりそうにないコは殺す。カネになりそうなコは、カネを取れるだけ取って、それから殺す。最初のコは、50万円取ってから殺しました。
でも、いま考えれば失敗でした。そのままカネをもらい続けることもできたし、結果的に見つかってしまいましたからね。自殺願望があろうとなかろうと、悩みを聞いてあげて、口説いて、カネにならなかったから殺した。それだけです」
僕は、被害者に頼まれたから殺したんじゃない。殺したかったから殺しただけだーー。身勝手な理屈を並べ立て、まるで他人事のように自身の凶行の動機を語るその口ぶりからは、微塵の反省も感じることはできなかった。
終始、淡々と質問に答える白石被告だが、ある人物の死について話が及ぶと、急にショックを受ける様子を見せた。
「えー! 三浦春馬の死因は、自殺ですか。拘置所ではラジオを聴くことができるのですが、以前、本人が番組で『舞台をやるから観に来てください』と言っているのを聞きましたよ。ラジオでも報道はありましたが、自殺だったとは驚きです」
そして取材を始めて20分ほど過ぎたころ、白石被告は突然、机に顔を突っ伏した。
「たまに人としゃべると、目眩がしてくるんです。当時の僕は、たしかに猟奇的だったと思います。死刑でも仕方がないですよーー」
白石被告が “自身の死” にすら無関心な様子を見せたところで、面会は終わりを迎えた。取材を通して浮き彫りになったのは、「命」というものをまったく尊重しない、白石被告の傲慢さだった。
今回、逮捕された医師2人の詳細な動機は、いまだ明らかになっていない。だが、女性患者に薬物を投与する瞬間、彼らの心の中に、白石被告に通ずる“ 傲慢さ” は、なかったのかーー。
(週刊FLASH 2020年8月18・25日号)