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人工知能がカラー化した「戦前モノクロ写真」凍った日常が蘇る

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.08.09 16:00 最終更新日:2020.08.09 23:08

人工知能がカラー化した「戦前モノクロ写真」凍った日常が蘇る

防毒マスクをする僧侶たち

 

 戦前から戦後にかけての写真は、もっぱらモノクロです。カラーの写真に眼が慣れた私たちは、無機質で静止した「凍りついた」印象を、白黒の写真から受けます。このことが、戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っていないでしょうか?

 

 

 この「問い」から、カラー化の取り組みがはじまりました。私たちはいま、AI(人工知能)とヒトのコラボレーションによって写真をカラー化し、対話の場を生み出す「記憶の解凍」プロジェクトに取り組んでいます。

 

 カラー化によって、白黒の世界で「凍りついて」いた過去の時が「流れ」はじめ、遠いむかしの戦争が、いまの日常と地続きになります。

 

 そして、たとえば当時の世相・文化・生活のようすなど、写し込まれたできごとにまつわる、ゆたかな対話が生みだされます。

 

「記憶の解凍」プロジェクトは、2017年、広島の高校生だった共著者、庭田杏珠さんとの出会いから始まりました。平和活動に積極的に取り組んでいた庭田さんに、自動カラー化の技術を教えたのです。

 

 庭田さんは、現在は広島平和記念公園となっている「中島地区」に着目しました。かつてそこにお住まいで、原爆投下によりすべての家族をうしなった濱井徳三さんとの交歓とカラー化技術が庭田さんのなかで結びつきました。

 

 いまは「公園」となった場所は、かつての「繁華街」だったこと。そこにあった平和な暮らしが一発の原子爆弾によって永遠に失われてしまったこと。こうした事実から、平和の大切さを多くの人に感じてもらいたい。

 

 この庭田さんの想い、そしてカラー化写真から生まれた「対話」でよみがえった、濱井さんの記憶。そのようすを目の当たりにしたとき、「記憶の解凍」ということばが降りてきました。現在、私たちは共同で、この活動に取り組んでいます。

 

「記憶の解凍」は、AIとヒトとのコラボレーションです。
 まず、AI技術でモノクロ写真を「自動色つけ」します。AIは、人肌・空・海・山など、自然物のカラー化が得意です。一方、衣服・乗り物などの人工物は苦手で、不自然さが残ります。

 

「自動色付け」は、あくまで「下色付け」です。次に、戦争体験者との対話・SNSで寄せられたコメント資料などをもとに、手作業で色を補正していきます。この「色補正」は、とても手間のかかる地道な作業です。

 

 たとえば、「戦前の広島・本通り」の完成までには、数ヶ月かかっています。

 

「戦前の広島・本通り」着色前

「戦前の広島・本通り」着色後

 

 AIが判断できない人工物の色は、対話の内容や資料をもとに修正します。SNSで寄せられた情報をもとに、色補正することもあります。たとえば、映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督からは「きのこ雲」の色合いなど、さまざまなご指摘をツイッターでいただき、大いに参考になりました。

 

 カラー化された写真の色彩は「実際の」色彩とは異なります。できる限りの「再現」を目指していますが、まだまだ不完全です。私たちは「過去の色彩の記憶をたどる旅」を、日々続けています。おそらく、永遠に終わらない旅です。

 

 

 以上、庭田杏珠氏・渡邉英徳氏の共著である『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)をもとに再構成しました。戦前から戦後の貴重な白黒写真約350枚を最新のAI技術と、当事者への取材や資料をもとに人の手で彩色。カラー化により当時の暮らしがふたたび息づきます。

 

●『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』詳細はこちら

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