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市議の不正を暴いた「地方テレビ局」記者の活躍ぶりが映画化

社会・政治 投稿日:2020.08.13 20:00FLASH編集部

市議の不正を暴いた「地方テレビ局」記者の活躍ぶりが映画化

 

 有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一という富山県で、2016年8月、地元局「チューリップテレビ」(1990年開局)が痛快なスクープを飛ばした。

 

 自民会派に所属する富山市議の多くが政務活動費について事実と異なる報告をしている実態を暴き、当該議員たちを次々と辞職に追い込んだのだ。

 

 

 この富山市議会の腐敗と、議員たちの開き直りを描いたドキュメンタリー映画『はりぼて』で監督を務めたのが、五百旗頭(いおきべ)幸男氏と砂沢智史氏だ。事件当時、五百旗頭氏はチューリップテレビの報道番組のキャスター、砂沢氏は記者だった。

 

「議員報酬の改定問題が大前提にあったんです。月額60万円だったものが、たった2回の審議で10万円引き上げることが決まりました。それを奇妙に思い、取材を始めたんです」(五百旗頭氏)

 

 

 映画の冒頭、砂沢氏は、“富山市議会のドン” と呼ばれた、自民会派の会長・中川勇氏を直撃するが、「会社の役員だとか、そういう(収入の)後ろ盾がない人しか議員になれないようでは、この市がよくなるとは思えない」と手玉に取られてしまう。

 

 しかし、老練な議員らとやり合ううち、砂沢氏も記者として鍛えられていく。

 

「議会は3カ月に一度しか開かれず、議員の日常も見えない。県内には議員報酬が月15万円だった村(=舟橋村。現在は月20万円)もあるんです。この格差はどこで生まれるのか? 彼らは議員報酬に見合う仕事をしているのか? いろいろ疑問が出てきて追ううちに、政務活動費の問題が浮上してきたのです」(砂沢氏)

 

 

 政務活動費とは、地方議員に支給される、調査研究などの活動のための経費。砂沢氏がおこなった富山市への情報公開請求や、地道な取材活動の結果、中川氏は馬脚を露わした。

 

「市政報告会の資料の印刷代として政務活動費を支出していたのですが、その報告会が実際には開かれていなかったことが判明したのです」(砂沢氏)

 

 その後も、各議員のカラ出張や印刷代の水増しなどの不正が次々と発覚。“議会改革の旗手” との期待を背負って議長に就任した議員にも疑惑が生じ、ついには14人もの議員が辞職した。中川氏ほか3名の議員が詐欺罪で有罪判決を受け、不正の総額は、じつに4000万円を超えていた。

 

不正の総額は、じつに4000万円を超えていた

 

 一方で森雅志富山市長は、自身の責任を問われると、ときとして烈火のごとく怒る。そして、議会と首長がそれぞれ直接選挙で選ばれるという「地方自治の二元代表制」を建前にして、報道陣を煙に巻くのだ。

 

「口癖のように『制度論』を繰り返し、二元代表制を盾にして言い逃れる様子は、菅義偉官房長官が『その指摘は当たりません』と記者団の質問をシャットアウトする “否定話法” と相通じます。トップが、自分の負うべき責任や役割を怠っていれば、それが市議にも伝わってしまうのです」(五百旗頭氏)

 

 人口約42万人の地方都市での出来事が、国政の縮図に見えてくる映画だ。


取材/文・鈴木隆祐

 

※映画『はりぼて』は、8月16日より東京・ユーロスペースほか全国で順次ロードショー。作品の原型となった番組『はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防』は、2017年の第43回放送文化基金賞「テレビドキュメンタリー番組」部門で優秀賞を受賞しています

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