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石破茂が『シン・ゴジラ』を解析「リアルなのはNBC偵察車」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.09.02 06:00 最終更新日:2019.10.24 10:15
7月29日の封切り後、320万人以上の観客を動員し、大ヒットとなっている『シン・ゴジラ』。人気の理由は徹底したリアリティにあるとされる。元防衛相で政界屈指の軍事通である石破茂氏が、専門家ならではの切り口で、そのリアルさと疑問点を解析した!
リアル(1)兵器の数々
映画には「F-2戦闘機」、「10式戦車」など、実在する自衛隊の兵器が多数、登場する。マニア垂涎だ。
「地上にいるゴジラを攻撃するのに対地攻撃用の『F-2』の使用は妥当。よく描けていると感心しました」
石破氏がもっとも注目したのは、放射能汚染や生物・化学兵器に対処する「NBC偵察車」が登場したことだ。
「日本は、原爆投下やオウム真理教が起こした事件など、N(核)B(生物)C(化学)のすべての攻撃を受けた唯一の国です。現実には、まだNBC偵察車が大活躍したことがありません。映画では、ちゃんとゴジラの放射能汚染対策に登場していて、果たすべき使命を果たしていると思いました」
リアル(2)官邸内の動き
劇中では、政治家や官僚によるゴジラ対策のための会議が延々と続く。こうした政府内の描写についてはどうか。
「官邸内のセットは、誰が見てきたんだ、と思うくらい正確でした(笑)。官僚や政治家の動き、内部の混乱もリアルです。女性の防衛相が、優柔不断な首相に決断を迫るシーンは、防衛相時代の小池百合子さんを彷彿とさせます」
リアル(3)「超法規的措置」
結局、首相は「超法規的措置」という形で自衛隊を防衛出動させる。しかし戦闘ヘリがゴジラと対峙した矢先、逃げ遅れた民間人の姿を発見。すんでのところで、首相は攻撃を中止する……。
「戦場に民間人を残してはならないということを徹底させなければなりません。そのために国民保護法、有事法制を整備したのです。もしゴジラが来たら、現実世界でも避難や対処の相当部分が『超法規的措置』にならざるをえないでしょう。むしろこの映画によって提起された問題点を、どれだけ真剣に想定できるか、ということです」
リアリティに感心する半面、石破氏は疑問に感じる部分もあるという。
疑問(1)自衛隊の「防衛出動」
映画では、ゴジラに対して「武力行使」するため、政府は「防衛出動」の名目で自衛隊の出動を許可する。しかし石破氏は、この点に異を唱える。
「制作側の意図はまったく別の部分にあるのだと思いますが、ゴジラが外国の意に従って暴れているのでない限り、防衛出動の対象にはなりえません。害獣駆除を目的とした災害派遣がもっとも迅速な対処の根拠になります。使用する火力の質や量に制限はありません」
疑問(2)閣僚の避難
ゴジラが官邸に迫り、避難するため首相以下、11人の閣僚が同じヘリに乗り込む。結果、たいへんな事態が……。
「普通は、リスクヘッジのため11人は別行動を取るはずです。しかし、現実でも、首相に何かあった際、臨時代理の継承順位は5位までしか決まっていません。もしも、そのメンバーが揃ったところを攻撃されたら、どうなっちゃうんでしょうね……」
リアルだからこそ、フィクションが際立つ。ゴジラが本当に上陸したかのような議論が起こるのは、庵野秀明総監督の思惑どおりか。
(週刊FLASH 2016年9月13日号)