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海上自衛隊ご自慢の飛行艇に同乗「これが海上救難の現場だ」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.09.05 18:00 最終更新日:2016.12.16 21:21

●救助を諦めるときの大いなる無念

 

 11時、いよいよUS−2は離陸し、訓練が始まった。遭難者に見立てた目標物を海面に投下し、捜索→救出というプロセスになるが、当然、上空から見ると人間は米粒くらいの小さな点になってしまう。しかも波に揺られ、どこに流れるかわからない。事前に風向きや波の高さなど細かい情報を集めるのはそのためだ。

 

「“いい波”のときは休みのときでも隊員を呼び戻すことがありますよ」

 

 こう語るのは、今回の訓練を案内してくれた操縦士。「いい波」? サーファーじゃあるまいし、とも思うが、彼ら飛行艇乗りにとっては、波の高さがもっとも重要な救助の判断基準だ。

 

 そして、派遣要請を受けるときは、まず間違いなく最悪の条件下である。それゆえ、天候不良で海が荒れているときは、休みも返上で訓練に参加するという。

 

「これもいいパイロットを育てるためです。飛行艇乗りはもともとそう多くいるわけではありません。だから人材は貴重なんです。必ず成長させる、絶対に諦めないという意気で先輩は後輩の面倒を見ています」(操縦士)

 

 人材育成については「諦めない」がモットーの彼らだが、任務遂行においては「諦める」ことも重要だ。機長が言う。

 

「波が高く着水できず、物資を投下するだけで帰ることもあります。操縦士としては、とにかく着水したい。そこに救助を求めている人がいるなら、どうにかして着水して助けたい。

 

 でも、機長として考えると、私以外に10名のクルーがいる。彼らの命もかかっているわけで、そういう意味では、常にやめるという判断を頭の片隅に置きながら任務をこなしていく必要があるんです」

 

 思いが先走って無理をすれば、第2の事故を起こすことになりかねない。救難飛行艇の機長には冷静かつ的確な判断力が必要なのだ。その能力を養うためには、とにかく経験を重ねるしかない。

 

 彼らは鍛え上げられた運用力とチームワークで、結成以来、数多くの人を救出してきた。遭難事故は警察や消防、海保がまず対処し、飛行艇しか手段がない場合に、自衛隊が出動することとなる。自衛隊は最後の頼みの綱なのだ。

 

 US−2の航続距離は約4500km、巡航速度は時速約480kmでありながら、超低速での飛行も可能である。

 

 さらにUS−2は、独自の薄型波消し装置の効果で波高4mでも降ることが可能だ。こうした数々の特徴から、この飛行艇をぜひ導入したいという声が多くの国から寄せられている。その数は40カ国以上という。

 

 さて、私が同乗した救助訓練に話を戻そう。US−2は海上に着水し、救命ボートが手早く降ろされた。隊員が、鉄のように波突き刺さる荒海に飛び込んでいく。この段階になると、頼れるものは個々の実力とチームワークだけだ。

 

「目と目で合図を交わします。あうんの呼吸で何が言いたいかお互い理解しますね。最後はハートなんです」

 

 私がそこで見たのは第71航空隊の底力だった。

 

(週刊FLASH 2013年10月8日号)

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