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経営危機の銚子電鉄、社長が「危ない橋を渡ってます(笑)」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.09.23 11:00 最終更新日:2020.09.23 14:42
千葉県銚子市を走る「銚子電鉄」(以下、銚電)と言えば、ぬれ煎餅の販売で経営危機を脱出したことで、鉄道ファン以外にも知られる存在だ。一昨年に販売を開始したスナック菓子「まずい棒」は、約2年間で200万本を売り上げるヒット商品に。今や銚電の売り上げの8割が食品事業というから、もはや「お菓子屋が電車を走らせている」と言っても過言ではない。事実、帝国データバンクにも銚電は「米菓製造会社」として登録されているのである。
とはいえ、崖っぷちの経営状況に変わりはない。特にコロナ禍に見舞われた2020年は、「さらにまずい」ことになっているという。
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そんな銚電が渾身の大逆転策として繰り出したのが、映画である。銚電が制作した映画「電車を止めるな!」は8月末から一般公開。小さな会場でのインディーズ上映ながら、徐々に上映場所を増やしつつある。
なぜ鉄道会社が映画?どこかで聞いたようなタイトルだけど、その辺は大丈夫?銚電はどこへ向かうのか?気になるあれこれを同社の竹本勝紀社長に聞いた。
――コロナで大変な経営状況だと思いますが
「ええ、大変です。大変まずい状況です。特に4月の緊急事態宣言が出てからは大変でした。4月のある日などは、1日の運賃収入が4480円。電車を動かすコストは1日60万円ほどかかりますからね。ゴールデンウィークも、本来であれば書入れどきなんですが、例えば5月4日のデータを見ますと、前年比マイナス95.8%。無残な数字ですね。
6月に緊急事態宣言が解除されてからは、やや持ち直してきてはいるんです。それでも、東京から来られる人がいないんですね。この影響はかなり大きいんです」
――コロナ前はどうだったんですか
「前年度は、前半は好調だったんです。好調と言いましても、黒字かトントンかというところですが。それが、9月、10月と台風の被害が大きかったですよね。あれで失速してしまいました。その上に、コロナがやってきた」
――「まずい棒」がかなり売れたようですが
「発売が2018年の8月3日、『破産の日』ですね。経営状況が非常にまずいんです、助けてください、という、まあ自虐ネタですが、これがおかげさまで非常に売れまして。このまずい棒を考案したのが、寺井広樹さんという、うちで『お化け屋敷電車』などもプロデュースされている方です。その寺井さんと話しているうちに出てきたのが、映画なんです。ちょうど『カメラを止めるな!』がヒットしているときでした。製作費300万円で興行収入が30億円だとか、当たればデカいぞなんて話が盛り上がっちゃいましてね。『電車を止めるな!』というタイトルもそこで決まりました。まずい棒が売れて気が大きくなってたんでしょうねえ(笑)」
――勢いで出た話が本当になっちゃったと
「そうなんです。『B級でもC級でもない、超C級。銚子だけに』なんてダジャレを言ってたら、地元の新聞が取材に来てくれまして。それで引っ込みがつかなくなっちゃったと」
――思いっきりパクったタイトルですが、向こうさんはOKされたんですか
「まあそれがいろいろありましてね…。最初に連絡したときは、別に構わないということだったんですが、そのうちテレビとかいろんなメディアに取り上げられて、話が大きくなってきたんですね。
『カメ止め』の女優さんがうちの映画のクラウドファウンディングに出資してくださっていたので、『カメ止めも応援している』みたいな拡大解釈したタイトルが出ちゃったり。
そうなるとさすがに向こうも『うちは応援なんかしてないぞ』と。まあ、大変お怒りになられてですね。それでいろいろお話して、最終的にはなんとかご理解いただけましたが」
――パロディですからね。「まずい棒」は大丈夫だったんですか
「そちらともいろいろありましたね。最初、○○さん(「●●い棒」の製造会社)に連絡したところ、叱られましてね。『うちの商品のイメージが悪くなるからやめろ』と。当然ですよね。
それでも寺井さんがあきらめきれずに『銚電の社長が伺って説明します』とか言っていると、向こうも『そこまで仰るなら“黙認”ということにしましょう』と。それで製造を始めたんですが、まずい棒が話題になると『うちはOKなんてしていません』と言われちゃいましてね…。まあ、なにかと謝っていますよ。謝りっぱなしです」
――最近では「ガリッガリ君」という氷菓もありますね
「はい。経営状況がガリッガリという、これも自虐ネタです。3000円以上の商品を購入されたお客様にプレゼントする予定だったんですが、諸般の事情がありまして、中止になりました。まあ、端的に言いますと、向こうの会社から警告文が来た…」
――それは残念ですね
「他人のふんどしで相撲を取っているのは事実ですから。危ない橋ばっかり渡っているわけですよ。あ、鉄道会社でその表現はまずいか(笑)」
――危ない橋を渡っても、電車は止めてはいけないと
「もう、それに尽きます。銚子電鉄はとにかくお金がない会社です。電車も施設も古い。オンボロです。状況を打開するためには、売れるものは何でも売る。線路の石だって売っています。
『石なんか売りやがって、もう廃線にしろ』『お前らは千葉の恥だ』などというお叱りの電話もかかってきます。しかし、石を売ってでも、それをお金に換えて電車を動かすんです。
鉄道は交通弱者の足として、欠かせません。鉄道がなくなれば街は衰退します。一度鉄道を止めてしまえば、再び走ることはまずないですから」
――まさに「電車を止めるな!」ですね
「そうなんです。映画の方も意外と…あ、意外と言ってはいけないですが、好評でして。大きな会社からネット配信なんて話もいただいております。もちろん、上映してくださる会場もまだまだ募集しておりますよ」
――最後に、今後の新商品のアイデアなどあれば
「実はですね、『キップカッテ』というのを考えておりまして。ああ、そうです、ウエハースにチョコがコーティングされたアレです。しかし、どうなんでしょうね。確かあの会社は外資系の…。う~ん、これはまずいかもですね。向こうの会社に訴えられて倒産なんてことになったら、もうシャレにもならないですね」
竹本勝紀
銚子電鉄代表取締役社長。1962年、千葉県木更津市生まれ。銚電の顧問税理士から2012年代表取締役に就任。2016人には免許を取得し、自ら電車を運転することも。