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「サザエさんは不謹慎」11人の批判を炎上につなげたマスメディア
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.10.04 16:00 最終更新日:2020.10.04 16:00
東京大学准教授の鳥海不二夫氏は、マスメディアが炎上を作り上げてしまう「非実在型炎上」に警鐘を鳴らす。
例えば、新型コロナウイルスの不安真っ只中の2020年4月7日、「#東京脱出」というハッシュタグが拡散されていると、以下のように朝日新聞で報じられた。
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《ツイッターでは「東京脱出」というハッシュタグ(検索ワード)が拡散されている。だが、ウイルスを地方に運び、そこで広げてしまえば、新たなクラスター(感染者集団)を生んでしまうおそれも否定できない。専門家は注意を呼びかけている。》
当時は東京都で感染者が急増している時期で、緊急事態宣言が出されて外出が難しくなる東京を離れ、地方に脱出しようとする人がこのようなハッシュタグを拡散しているというわけだ。
記事内では、女子学生が東京から静岡に帰省した結果、家族に感染させてしまった事例などを紹介している。そのうえで、感染者が多く報告される首都圏からの移動によって地方でもクラスターが発生してしまう危険性があるとし、そのような動きに対して注意を呼びかけている。
なるほど、確かにそのようなハッシュタグを拡散し、緊急事態宣言下の東京から脱出して地方で自由を謳歌しようなどと呼びかけていたら、問題行為といえるだろう。
しかし、鳥海氏のツイッター分析結果は、この「東京脱出」の意外な真実を浮き彫りにした。何と、そのようなハッシュタグは、4月7日7時に記事が配信され、それが朝日新聞の公式ツイッターアカウントで通知されるまで、たった28件しか投稿・拡散されていなかったのである。その一方で、記事配信以降たった1日で、なんと1万5000件以上の投稿・拡散があったのだ。
1日で1万5000件以上というのは驚異的な数字である。これはあくまで投稿されている数なので、それを見ている人はもっと多いだろう。私自身、SNS上で「こんなハッシュタグが流行っているらしい」と話題にしている人を多く見た。
「『東京脱出』というハッシュタグ(検索ワード)が拡散されている」と報じられていたが、それは誰がどのように拡散していたのだろうか。確かに、たった28件でも拡散されているというのは嘘ではない。
また、記事の注意喚起は確かに重要な視点である。しかし、ツイッターで多く拡散されていて、そういった考えの人が多く存在するというイメージを抱かせるのは、果たして報道の在り方として正しいのだろうか。
その後、県外からの来訪に反対する動きが強まり、県外から来訪している人の自動車に対して煽ったり落書きしたりといった悪質な迷惑行為を行う「県外ナンバー狩り」というものが話題になった。県外ナンバーの車を積極的に通報するような動きもあったらしい。
タイミングなどを考えれば、この「東京脱出」記事と、その後の類似記事をもとにした「東京脱出」という話題の拡散が、このような行為に影響を与えていた可能性も否定できない。
このような「作り上げられた炎上」の例はほかにもある。国民的アニメであるサザエさんの事例を見てみよう。
2020年4月26日のサザエさん放送において、磯野家がGWにレジャーに行く計画を立てたり、動物園を訪れたりしたという内容が流れた。これに対し、「コロナで自粛の中、GWに出掛ける話なんてサザエさん不謹慎過ぎ!」などの批判が付き、炎上したと報じられた。
しかし、この件を最初に「デイリースポーツ」が報じて以降、むしろ前記のような批判に対する批判の投稿が相次いだ。「フィクションまで自粛しろというのか」「こんなことを本気で言っているならヤバい」「世の中息苦しい」などの声が多く投稿されたのである。
さらに著名人にもこうした批判に対して苦言を呈する人が現れ、それが拡散、多くのネットメディア・まとめブログが記事として取り上げるに至った。
確かに、アニメの登場人物がGW中に外出しようとしただけで「不謹慎」と指摘されるのは、非常に窮屈だと感じられる。これまでも何度か触れている、いわゆる「不謹慎狩り」のようだ。
しかし、これも鳥海氏がツイートを分析した結果、なんと、サザエさんが放送されてから最初にメディアで取り上げられるまでの数時間で、「不謹慎だ」と言って批判していた人は「たった11人」しかいなかったらしい。
事実、その後のツイートを私が確認しても、「不謹慎狩り」を批判する内容は大量に投稿されていたが、サザエさん自体を不謹慎な内容だと批判する投稿は、ほとんど皆無であった。
これを見ると、『サザエさん』放送時にはほとんど投稿されていなかった「サザエ 不謹慎」を含むツイートが、最初にメディアで報道されてから急増し、さらにその後インフルエンサーがそれらの記事に言及したことで、瞬く間に広まっていったことが分かるのだ。
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以上、山口真一氏の新刊『正義を振りかざす「極端な人」の正体 』(光文社新書)をもとに再構成しました。SNSでの誹謗中傷、自粛警察、不謹慎狩り、悪質クレーマー……彼らの正体について、気鋭の研究者がデータ分析から意外な真実を導き出します。
●『正義を振りかざす「極端な人」の正体』詳細はこちら