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アメリカの貧困層が苦しむ理由は「給与税」と「消費税」

社会・政治 投稿日:2020.10.05 16:00FLASH編集部

アメリカの貧困層が苦しむ理由は「給与税」と「消費税」

写真:ロイター/アフロ

 

 アメリカでは、現在、ほとんどの社会階層が、所得の25~30%を税金として国庫に納めている。ただし超富裕層だけは例外的に、20%ほどしか納めていない。アメリカの税制はほぼ均等税と言えるが、最富裕層だけ逆進的なのである。

 

 もう少し詳しく見ていこう。年間平均所得が1万8500ドルの労働者階級(所得階層の下位50%)は、所得の25%前後を税金として支払っている。この税率は、中流階級(その上の40%)になるとやや上がり、上位中流階級では28%前後に落ち着く。

 

 

 富裕層になるとまた税率は少し上がるが、平均値の28%を大幅に上まわるようなことはない。

 

 ところが最上位400人になると、その税率が23%まで落ち込む。この400人がみなまったく同じ状況にあるわけではないにせよ、グループとして見るかぎり、トランプ大統領やフェイスブックのザッカーバーグ、投資家バフェットらの税率は、教師や事務員の税率よりも低い。多くの人が累進的だと考えている税制が、なぜ実際にはこれほど逆進的なのか?

 

 所得の少ないアメリカ人にこれほどの税負担が課されている原因は2つある。

 

 第1に、給与税である。労働者はすべて、いかに賃金が少なかろうと、給与を受け取った段階で15.3%が差し引かれる。社会保障税の12.4%と、メディケア税の2.9%である。その一方で、最低賃金制度は破綻している。

 

 2019年、連邦政府が定める最低賃金で働く常勤労働者は、1年間に1万5000ドルしか稼いでいない。成人1人あたりの平均国民所得のわずか5分の1である。1950年には、最低賃金労働者は平均所得の半分以上に相当する額を稼いでいた。

 

 最低賃金労働者は、税引前所得が大幅に減っているなかで、さらに給与税の増加に苦しんでいる。給与税は、1950年には所得の3%だっ
たが、現在では15%を超えている。

 

 そして第2に、消費税である。これは給与税以上に、労働者階級のアメリカ人の税率を高める原因となっている。アメリカには付加価値税はないが、売上税や物品税が氾濫しており、それが付加価値税同様に物価を押し上げている。

 

 それに、こうした税制にはゆがみがある。通常の付加価値税であればサービスにも課税されるが、アメリカではそれがないため、ほとんどのサービスが非課税となっている。

 

 ちなみに、各階層の支出の割合を見ると、貧困層は物品に対する支出が、富裕層はサービスに対する支出が多い。そのため、貧困層の消費(物品)には課税され、富裕層の消費(サービス)にはほとんど課税されないことになる。

 

 つまり、アメリカには付加価値税はないが、貧困層を対象にした付加価値税は存在する。オペラを鑑賞するのにも、カントリークラブの会員になるのにも、弁護士を利用するのにも売上税はかからない。だが、車や衣服、電化製品を購入すれば、必ず売上税が課される。

 

 確かに大半の州では、食料品に軽減税率を導入している。食料品は、最貧困層の消費のおよそ15%を占める。だがこうした減税も、きわめて逆進的な物品税によりほとんど相殺されてしまう。

 

 燃料やアルコール、たばこに課される物品税は、売上税とは違い、購入した製品の価格ではなく、消費した量に課税される(ワイン何リットル、ビール何オンスなど)。そのため、価格に対する割合で言えば、高級なワインやビールのほうが、一般的な飲み物よりも税率が低くなる。

 

 信頼性の高いほかの推計を見ても、売上税と物品税とが相まって、きわめて逆進的な効果を生み出していることがわかる。

 

 これらの税は、最下層では所得の10%以上を占めているが、富裕層では1~2%しか占めていない。こうした逆進性が生まれるのは主に、貧困層が所得をすべて消費しているからだ。

 

 売上税は連邦税ではなく州・地方税だが、貧困層には逃げ場がない。州を変えたところで、税負担はさほど変わらない。確かに、消費税が低い州、食料品に対する税率が低い州もあるが、全体的に州は、きわめて逆進的な税制を採用しているのだ。

 

 

 以上、『つくられた格差~不公平税制が生んだ所得の不平等』(光文社)をもとに再構成しました。富裕層はますます富み、中間層や貧困層はより貧しくなる真の理由とは? 衝撃的なアメリカの現状を分析します。

 

●『つくられた格差』詳細はこちら

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