「私も維新にいたときは、大阪都構想を宣伝していましたが、橋下氏らが使っていたパネルやビラに、うそやミスリードが多くてウンザリしました。たんに行政の管理機構を整理するだけなのに、『すべてがよくなる』と言うんですから」
そう述べるのは、かつて所属していた旧「日本維新の会」時代に橋下徹氏(51)と行動をともにしていた、米山隆一・前新潟県知事(53)だ。
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10月12日に「大阪都構想」の是非を問う、2度めの住民投票が告示された。11月1日に投票日を迎える。
「私も『政令指定都市と県の権限の関係は、整理が必要だ』とは感じます。ですが、すでに長年確立されている大阪府と大阪市という行政組織を『統一しながら、4つに分離する』という作業は、あまりに手間が多い。都構想可決となれば、行政的な “雑事” に追われて、大阪は4〜5年を無駄にすることになりますよ」
そう語る米山氏に、大阪都構想と「橋下政治」の危険性を聞いた−−。
大阪都構想は、「府」と「市」の二重行政解消を目的に、大阪市を廃止して4つの特別区に再編する計画だ。2015年にあった1度めの住民投票では、僅差で否決され、旗振り役の橋下氏は政界を引退した。
だが、2020年の新型コロナ禍で、元 “部下” の吉村洋文大阪府知事(45)が一躍、名を挙げた。そして、橋下氏自身もメディア露出を増やしている。
「今度負けたら、おしまいですから、橋下氏と『維新』の人たちは、都構想実現に必死だと感じます。いまの大阪の情勢なら、可決されるかもしれません」
いまだに、橋下氏の影響力は絶大だ。9月中旬の新内閣組閣時も、たちまち「橋下氏が入閣へ」という噂が流れた。
9月末から橋下氏がコメンテーターに就任した朝の情報番組『グッとラック!』(TBS系)についても、「たしかに橋下さんが出る月曜日だけ数字(視聴率)がいいんです」と番組関係者は語る。だが一方で、こんな心配もこぼすのだ。
「スタジオ討論で橋下さんから “口撃” を受けるためか、専門家がコメンテーターで出たがらなくなっているんです」
このことに関して、間近で橋下氏の “やり口” を見てきた米山氏は、こう語る。
「彼は討論でもなんでも、目の前の相手を打ち負かせればよくて、結論の妥当性に興味がない。そのうえ、『選挙に勝った政治家がすべてを決める。口出しするな。口出しするなら政治家になれ』という彼の “マッチョ政治家ロジック” が、一部の有権者にウケがいいことも自覚しています」
このロジックがはっきり見えたのが、菅義偉首相(71)による、「日本学術会議」の「任命拒否」問題のときだという。
「問題の本質は、『定められた制度趣旨と、まったく違う任命拒否を首相がした』ということです。そして、首相がその理由を説明しないなら、『思想信条で、一部の学者を差別しているのではないか』ということになる。これこそが、今回の問題の核心であるはずです」
しかし橋下氏は、10月11日の『日曜報道 THE PRIME』(フジテレビ系)で、2017年に学術会議が提言した「軍事的安全保障研究に関する声明」を持ち出し、「学術会議が、まさに政治介入してきている。これは絶対にあってはならない」と発言した。
「そうやって、今回の問題を学術会議自体を否定する話にすり替えたんです。『学術会議に国費10億円が使われている』『軍事研究を拒否している』といったことが問題だ、などと言いだしたわけです」
橋下氏は “マッチョ政治家” の立場から、「学者が政治に口出しするな」と、露骨に打ち負かそうとしてきたのだ。
「いやいや、民主主義政治家は『政治介入されてなんぼ』じゃないかと私は思います。各所から陳情を受けるし、有権者からも意見を言われる。それを聞きながら政策を推し進めていくのが、民主主義政治家です。第一、学術会議の声明はあくまで “提言” で拘束力はない。
それを橋下氏が大げさに『学者が政治介入している』と言うのは、一部の有権者へのウケを狙い、それによって大衆煽動をしているだけとしか思えません」