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覚醒剤に溺れた元警部が語る薬物依存「わずか1日で転居」「強烈な自殺願望」…

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2020.11.06 06:00 最終更新日:2020.11.06 19:29

 

覚醒剤に溺れた元警部が語る薬物依存「わずか1日で転居」「強烈な自殺願望」…

稲葉さんと愛猫

 

 沢尻エリカ、伊勢谷友介、槇原敬之など、昨今、芸能界で薬物使用が広がっている。10月には酒井法子の元夫である高相祐一容疑者も逮捕された。さらに東海大学と近畿大学の学生も捕まるなど、一般社会にもじわりじわりと及んでいることがわかる。

 

 薬物を使うと、いったいどのような気分に陥るのか。そして、依存から脱却するにはどうしたらいいのか。

 

 

 覚醒剤を摘発していた警官が、自らも薬物に手を出すという不祥事を起こした北海道警の元警部・稲葉圭昭さんに話を聞いた。稲葉さんは、2016年に公開された映画『日本で一番悪い奴ら』のモデルである。

 

 稲葉さんは、現役警部でありながら、2002年に覚せい剤取締法違反で逮捕され、世間を震撼させた。1976年に道警に採用され、交番勤務を経て機動捜査隊、刑事2課と順調にキャリアを歩んだ。高校時代、柔道部に所属し、道内優勝、インターハイでもベスト8を獲得しており、仕事でも常に「一番」を求めていた。

 

 機動捜査隊にいたころ、1カ月で30点以上の点数ノルマがあった。市民から寄せられた110番通報への対応だけでは、達成するのは難しい。

 

 上司から教わったのは、暴力団関係者など裏社会で生きる人々と関係をつくり、多少の犯罪を見過ごす代わりに情報をもらうやり方だった。

 

「『110番だけじゃ飯が食えなくなるぞ、(スパイの頭文字からとった隠語の)エスと関係を作れ』と言われた。ヤクザにわざとケンカを売ったり、名刺配ったり、シャブ(クスリ)の残骸を見ても『しまっとけ』と言うだけだったり……。彼らからは『おやじ』と呼ばれて、エスは常に20人くらいいた」

 

 保安課銃器対策室に異動してからも彼らと付き合い、100丁以上の拳銃摘発に成功した。

 

 優秀なエスの1人に、クラブ経営の夢を抱いた若者がいた。ただ、金銭感覚はルーズで、借金を背負っており、稲葉さん自身も1000万円ほど貸したが、返ってこないまま裏切られた。

 

「エスとしての仕事がバツグンによくて、かわいがっていたよ。もともとDJをしていて、いつかは自分の箱(クラブ)を持つ夢があったんだけど、叶わずに借金だけ積み重なって。

 

 最後に来たときも、『今日中に500万払ってくれなきゃ殺される』と言ってたんだけど、『1000万返してないのに、なんで貸さなきゃいけないんだ』と断ったら、今までのことをチクられた」

 

 道警は組織的にエスとの関係性を持っており、メンバーリストも作成していたが、責任は稲葉さんだけが負わされた。

 

「『稲葉が悪い』の一点張りで、仕事から外された。いじめだね。なにも仕事がなくなって、頭にきて……」

 

 責任を一方的に押し付けられ、自暴自棄になるなか、ふと覚醒剤を使ってみた。

 

「正確に数えたことはないけど、1日3~4回は打っていたんじゃないかな。仕事を外されたことだけじゃなく、異動してよそ者扱いされたり、結果を残して周囲からひがまれたりといったストレス、過去のイヤなことを全部忘れられた」

 

 だが、快楽があったのは最初だけ。使用を重ねると、かえって気分が落ち込んでいった。

 

「なにも変わらなくなる。打ってすぐはスーッとした感じがあるけど、ドロドロの気分になって、死にたいと思うようになる。『覚醒剤使って死んじゃえ~』と、精神が崩壊していた。よく体を壊さなかったと思うよ」

 

 覚醒剤は、借りていた潜伏先で使った。逮捕から逃れるため、1年間で8回ほど引っ越した。

 

「『捕まったらやばい』と被害妄想に襲われて、部屋を次から次へと変えていった。最短だと1日で解約したときもあった」

 

 逮捕され、懲役9年の実刑判決を受けた。受刑中、カレンダーを見ては出所日を思ってため息をついたが、日々小さなことを希望の糧にしたという。

 

「たとえば、『今日はパンが食べられる』『本が差し入れになる』とか、どんなに小さなことでもいいから『今日1日を頑張ろう』と希望を託して、気持ちを前向きにしていた。覚醒剤に溺れていたころにはなかったことだし、この考え方は今でも続けている」

 

 現在、薬物・アルコール依存からの回復を支援するNPO法人アスクのアドバイザーとして、依存症予防の啓発をおこなうかたわら、探偵事務所を経営している。

 

 ただ、依存症の回復は難しい。出所してしばらくは、1人でいるとき、ふとした瞬間に覚醒剤を使っていた当時が頭によぎった。またやりたい、あの快楽を求めたい……。悪魔のささやきに襲われながらも、ともに暮らす愛猫が心の支えとなっている。

 

「当時を思い出して再びやりたくなるときがあった。それで思考が動かなくなるけれど、もし逮捕されたらこいつ(猫)の世話はどうなる、と思って我に返った。

 

 手のひらに収まっていたころから育てて、寝ちゃうと寄り添ってくれて……。1人にならない、孤独の時間を作らないことが必要なんじゃないかな」

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