2020年に入り、傷害罪で夫の刑事告訴に踏み切った。しかし、夫は反撃に打って出た。
「私が当時、精神的に不安定で、『暴れていたのを長男と制止した……』というのが夫の言い分です。長男は、そんなことはなかったと、検事に証言しています。私が骨を折ったのも、『暴れてドアを蹴ったせいだ』と、夫は主張しているようです」
事件当時、夫の和雄氏は、骨折の痛みに泣いている聡子さんを横目に、室内の状況を撮影していたという。聡子さんの代理人を務める、DV問題に詳しい「あおば法律事務所」の橋本智子弁護士は、こう指摘する。
「加害者である和雄氏は、刑事弁護の取扱件数も多いベテラン弁護士です。DV夫に典型的な『話をそらす』話術に加え、法律知識も豊富です。荒れた部屋の写真は、聡子さんが暴れた証拠として使えるよう、撮っておいたのでしょう。
また、感情的になった聡子さんの音声も録音しており、さも暴れていたように印象づけるよう編集した音声を検察に提出するなど、じつに用意周到です。弁護士である加害者の責任逃れの巧妙さ、卑劣さは甚だしく、この種の問題の理不尽さを痛感します」
和雄氏は、どう弁明するのか。11月中旬に事務所に問い合わせると、「刑事事件、懲戒請求事案にもなっていますので、回答は差し控えさせていただきます」と回答があった。その1週間後、大阪地検は和雄氏に不起訴処分を下した。聡子さんが今の思いを明かす。
「正直、悔しいです。夫が私の腕を引っ張って倒した瞬間は、子供もはっきり見ていないので、証人もいません。刑事で立件するには、民事より証拠を固めないといけないので、難しいんです」
だが、泣き寝入りはしない。
「不起訴を不当として、検察審査会に持ちこむつもりです。それに、ほかの弁護士にはない経験をして、私には依頼者の思いや、近しい人が加害者に変わる恐ろしさがわかります。この経験を弁護活動に生かしたいです」(同前)
弱者に寄り添い、支えていくべき弁護士が、家族を苦しめていた。どんなに輝かしいバッジをつけていても、人は加害者になってしまうのだ。
橋本智子(はしもとともこ)弁護士
あおば法律事務所(大阪市)所属。DV、性暴力などハラスメント案件を多数手がける
(週刊FLASH 2020年12月15日号)