大人としては避けられない酒の席での振る舞い、うわさ、下ネタ、パーティ、同窓会、女同士の殺伐としたマウンティング、親とのコミュニケーション……。
自称「コミュ力偏差値42」の辛酸なめ子さんが、コミュ力のUPを目指して四苦八苦。その成果をまとめた新刊『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)から、下ネタコミュニケーションの奥義を語る。
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宴会や懇親会、イベントなどで人に会うと必ず下ネタを浴びせられる、という変な時期がありました。
例えば、知り合いにいきなりモテ&巨根自慢されたり、アカデミックな美術関係のトークイベントで、裸婦像に絡めてアンダーヘアの処理はどうしているか聞かれたり(観衆の面前で)、仕事関係の送別会で特殊な性癖を告白されたり、出版社の仕事の打ち上げでAV男優たちにえげつない質問をされたり、さわやかな映画PR男子が横須賀のラブホに行った思い出話を唐突に語りだしたり……。
なぜこんなに下ネタ運が高まってしまったのでしょう。モテ期ならぬシモ期です……。
ここ数年は下ネタが始まると、軽い微笑みを浮かべて相づちを打つくらいにしていたのですが、この度の下ネタラッシュに血が騒ぎだし、つい身を乗り出して食い気味に聞いてしまいました。
中でも興味深かったのは、ギャラリーのグループ展の懇親会で70代の漫画家の大先輩に聞いた話です。同じテーブルになったのは、Tさん(71)とYさん(76)という、大御所の先生と、ご友人の上品なマダム(下ネタには常に無言で微笑)。
何の流れか、日本が性におおらかだった時代の話になり、Yさんが、青年時代に自転車を担いである村を通り過ぎたら、谷間の家に住むおばあさんに「ちょっと寄りなさい」と誘われ、性の奥義について教えを受けたというエピソードを話しました。
博識のTさんが、かつては「若衆小屋」というものがあり、そこではおばあさんが若い娘に床上手になる方法を教えた、という伝承を披露。
「そのおばあさんは、女が何回もイクように開発してくれる。究極のセックスは、子宮口がパッと開いて男性器をパッとくわえる。腟口、腟、子宮口の三段締めになるんだ」と、手で円を作って、指を入れるジェスチャーでわかりやすく教えてくれるTさん。
「子宮に入ってギューッとなる。俵締めとも言われるね。惚れた男とやらないとそうならない」
するとYさんも「たしか某有名作家のSが、俵締めができると聞いたことあるよ」と話に参入。言われてみれば、S先生には年齢を超越した色気が漂っています。
Yさんのトークは白熱し、「本当の床上手は、イキ上手。G―SPOTくらいじゃ全然ダメ。でも訓練でなんとかなる」と熱く語る勢いに押され、「どんな訓練か教えてください」と、(一生使うことないだろうな……)と薄々感じながら質問しました。
するとYさんがノリノリでご教示くださったのですが、それによると、まず経絡(けいらく)を意識することが大事で、体の一部が触られたらどこに響くか自分の体を観察します。
「おっぱいを触ると下に響く、とかあるんだよ」
そうやって、経絡を見つけていき、触られた時の気持ち良さを忘れない。次の気持ち良さを重ねていき、体を開発すると、一ヶ所触られただけでとろけそうな快感に包まれるそうです。
「女の身体は楽器と同じ。共鳴するとどこを触られても感じるようになる」と一家言を放つYさん。
「女の快感は何度も押し寄せる。男は1回だけだけど。三入の法と言って、しばらくじっとして抜くのを3回繰り返すと気持ちいいみたいだね」と言うTさんに、「仙骨を押すと、子宮とつながってるから奥が良くなる。そうやって感性を磨いて、2倍3倍気持ちの良さを重ねていくと全身どこでも感じるようになるよ」とYさんが補足しました。
戦後の大変な時代を経て、人生経験豊富なYさん。遠い目をして語った昔話は、ロマンポルノ風で切なかったです。
「3つ上のチヨちゃんという姐御気質で色黒、やせぎすの子がいて、中学を卒業してから大阪の社長の愛人になったといううわさを風の便りに聞いてた。
そのチヨちゃんが夏に帰ってきて、『花火行こう』って誘ってくれたんだけど、もう女なんだよ。後れ毛がうなじに張り付いているのを見ていたら胸が苦しくて、そうしたら突然『さしたげようか』って。
『おねがいします!』って言って、2日間、15~16回はしたね。向うはテクニックをオヤジに仕込まれてて、こっちはへとへとになった」
と、つい数ヶ月前のできごとのように臨場感のある話しぶりでした。男性は過去の女性の思い出を上書きせず、別フォルダに保存するということがわかりました。
こうして数時間、下ネタばかり聞かされていましたが、なぜかドロドロした感じはなく、むしろ浄化されたような……。
数日後、仕事関係の会食で業界人男性に、数々の浮気の武勇伝を聞かされた時は、色情霊を呼びこんでしまったのか、ムーンストーンのブレスレットが突然ブチ切れたり、同席の女性が体調を崩したりしたのですが、70代男子の下ネタには逆に癒され、翌日の目覚めも爽快でした。本人が既に仙人の域に達しているからでしょうか……。
●辛酸なめ子(しんさんなめこ)
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『霊道紀行』『天使に幸せになる方法を聞いてみました』(以上、角川文庫)、『辛酸なめ子の世界恋愛文學全集』(祥伝社)などがある。