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なぜ大学生は自民党を支持するのか…若者が気にするのは「自分のいま」と「将来設計」

社会・政治 投稿日:2021.02.08 16:00FLASH編集部

なぜ大学生は自民党を支持するのか…若者が気にするのは「自分のいま」と「将来設計」

写真・AC

 

 大学のなかで学生の意識調査を行うのは、学生が作るメディア、大学新聞、大学ミニコミ、大学ウェブサイトニュース、そして、社会学あるいは教育学系の大学教員である。

 

 その大学の学生がどの政党を支持しているのか、時の政策について賛成か反対かを長きにわたって調べているところがある。「東京大学新聞」だ。1950年代から学生の意識調査、政治観を集計している。

 

 

 同紙では、2015年に安保関連法案に関する調査を行っている。また、それに関連して2017年10月の衆議院議員選挙について、東京大生の投票行動を調べている。東京大生の自民党投票率は51.6%。自民党の全国得票率は33.3%なので、18ポイント上回っている。

 

 同調査では、投票先を決める際にもっとも重視したことをたずねている。自民党に投票した学生の約62%が「政権担当能力」としている。一方、立憲民主党について、「政権担当能力」を重視した学生は約3%にすぎない。

 

 なるほど、自民党という政党への信頼感をうかがうことができる。当時、立憲民主党はまだできたばかりで、信頼に足る実績はほとんどないと評価されている。

 

 メディアの世論調査、学生による選挙行動調査から、自民党政権、安保関連法案に反対する学生は3~4割程度、集会やデモに参加した学生は1割に満たないといっていい。ということは、自民党政権支持、安保関連法案に賛成する学生は5~6割程度と見ていい。

 

 いったいなぜ、学生は自民党、つまり、現政権を支持するのか。

 

 ネットニュースマガジン「ビジネスインサイダージャパン」では、「『やっぱり安倍政権しか選べない』東大生はなぜ自民党を支持するのか」(2017年6月27日)、「売り手市場が続いてほしい──20代が希望の党より自民党を支持する理由」(2017年10月11日)、「東大生はなぜ “森友改ざん問題” 後も安倍政権を支持するのか」(2018年9月4日)において、自民党を支持する学生を紹介している。

 

 以下、抜粋しよう。

 

「まず、企画の前提が間違ってますよね。東大生なんて高所得者層の子どもが多いんだから、現状肯定派なのは当然じゃないっすか」(法学部3年・都内私立高校出身)

 

「安倍総理は人柄の良さがにじみ出てますよね。2006年の第一次安倍内閣の時は理想的なことばかり話していた気がしますが、今回は経済という国民の基盤となる部分にちゃんと力を入れている。民主党政権時代の記憶が残っているうちは自民党の支持率は下がらないんじゃないですか」(文科一類2年・都内私立高校出身)

 

「自分と高校も大学も同じ2歳上の兄がいい会社に就職できているし、サークルの先輩も就活に成功している人が多い。アベノミクス以降、株高、企業の業績向上、ベースアップが実現している。このまま今の売り手市場が続いてほしい」(都内の私立大2年の男子学生)

 

「一連の森友学園問題が民主主義の危機という人たちがいるが、そういう人たちが果たして本当に民主主義のことを考えているのか疑問。安倍政権を終わらせることしか考えてないように見える。仮に終わって、その後どうするのか。全くビジョンがない。(安倍首相は)問題があるなら真摯に反省しつつ、日本のために頑張ってほしい」(法学部4年・都内私立高校出身)

 

 これらの発言には、2010年代半ばの学生が置かれた状況、そして、当時の時代背景が反映されている。2009~12年、民主党政権時代、この世代は中学生から高校生で、生まれて初めて政治、社会に関心を持つ時期だった。

 

 多感だったこの時期、貧困、経済格差、不況、不景気、倒産、解雇、就職難、非正規雇用、ブラック企業、自己破産、年越派遣村など、生活の困窮さを示す言葉と、いやがおうでも付き合わなければならなかった。

 

 1990年代前半生まれの彼らは、生まれてから豊かさを感じたことがなかった。となれば、自分の身のまわり、自分の将来を第一に考えるのは自然なことであろう。「売り手市場が続いてほしい」と安定を求める考え方だ。

 

 2012年に発足した第2次安倍晋三政権では、直前の民主党政権の経済政策が失敗したことで国民の生活がどれだけ大変な状況になったかを盛んに喧伝していた。その後、首相の名前をとったアベノミクスによって景気が回復基調に向かっていることをしっかりアピールしていた。

 

 ここ数年、大企業の収益は伸びた(2020年のコロナ禍以降は先行き不明である)。学生にすれば安倍政権の経済政策のおかげであり、自分たちは恩恵を受けているように見える。少なくとも民主党政権よりは良くなったという、肌感覚があった。

 

 とりわけ、東京大、京都大、早慶などのエリート校で官僚、金融など一部上場企業をめざす学生にすれば、官僚制が十分に機能する、資本主義体制をしっかり守る、自由主義経済を発展させる、規制緩和でグローバル化を進めることができる日本社会を望むのは、当然であろう。

 

 学生が自分の将来の安定を願い、そのために日本経済の安定を求めるのならば、自民党以外の選択肢はなかなか見当たらないのだ。

 

 

 以上、小林哲夫氏の新刊『平成・令和 学生たちの社会運動 SEALDs、民青、過激派、独自グループ』(光文社新書)をもとに再構成しました。2010年代、学生による社会運動はどのように繰り広げられたのか検証します。

 

●『平成・令和 学生たちの社会運動』詳細はこちら

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