ならば、なぜ偽造までして、署名の数を増やす必要があったのだろうか。
「彼は、愛知5区での日本維新の会の公認候補として、次の衆院選に出るはずでした。そして、“高須マネー” と河村市長の人気を借りて当選したい、という思いもあったんでしょう。
なのに、今回のリコール運動で、あまり署名の数を集められなければ、“高須マネー” を引っ張ってこれんようになってしまう。そのためには、そこそこの数の署名は必要で、数を増やすために、ねつ造をしたわけです」
田中氏は元愛知県議で、2月25日に日本維新の会の愛知5区支部長を辞任している。
「私は、彼とは5〜6年前からつき合っておったんです。2年前の県議選では、河村市長を紹介しました。彼は、県議を務めていた2001年に、産廃業で失敗して破産し、議員報酬の差し押さえまでされとる。人間は一度過ちを犯しても、発奮して頑張ればいいと思っとったけど、彼はダメでした。
いずれにしろ、4月11日の名古屋市長選の告示までには、愛知県警は一定の “結果” を出すと聞いています」
県警の捜査について、元東京地検特捜部検事のベテラン弁護士は、こう解説する。
「今回のケースは悪質な印象を受けるので、偽造の首謀者が逮捕される可能性は高い。資金提供や指示など、具体的な証拠や供述があれば、共謀が認められた関係者が逮捕されることもあり得ます」
水野氏から “黒幕” と名指しされた田中孝博氏は、本誌の取材にこう話した。
「いまは、強制捜査が始まっていますので、この事案については、軽々な発言はできません。捜査当局に迷惑のかからない状況になれば、お答えさせていただくつもりでおります。ご質問があれば、私の顧問弁護士にご連絡ください」
しかし、弁護士事務所に取材を申し入れると「個別案件については、取材をお受けしておりません」との返事だった。
水野氏が “被害者” とかばう高須氏に取材を申し入れると、代理人弁護士が回答した。
「偽造には、まったく関与しておりません。署名簿を盗んでマスコミに売った人(水野氏)の言うことは、信用できません」
リコールの会から逮捕者が出るかもしれない状況を、高須氏はどうとらえているのか。
「万が一、そのようなことになれば、あらゆる活動について私が責任者ですから、あらゆる責任を取ります」
水野氏は、こう慮る。
「高須さんがもし逮捕されたとしても、事実が究明されれば、『(逮捕は)気の毒だった』という評価で収まってしまうと思います。あの人、自分は大将のつもりで、『部下のやったことは自分の責任』と思うとる感じがしますが、間違った大将意識が強いんですよ。
しかし忘れてはならんのは、署名の偽造というのは、民主主義社会で保障されるべき、『住民参加』という基本的な権利を脅かす、悪質な犯罪だということです」(水野氏)
この問題には、右も左も関係ない。必ず、真相を究明せねば――。
(週刊FLASH 2021年3月23日号)