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テレ朝記者が明かす「福島第1原発」廃炉処理が進まない5つの理由

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.03.11 06:00 最終更新日:2022.02.14 18:14

テレ朝記者が明かす「福島第1原発」廃炉処理が進まない5つの理由

福島第一原発2号機建屋。使用済み燃料棒取り出しの作業エリアを造っている現場

 

■理由3:科学的知見を無視した「汚染水の処理」

 

 2021年2月13日、福島県沖で発生した震度6強の地震により、福島第一原発構内にある汚染処理水などを保管するタンク1074基のうち53基の位置が最大19cmずれていたことがわかった。

 

 このタンクだが、東京電力によると、2022年秋には今ある約1000基のタンクは満杯。増設する余地はないという。

 

「原子炉冷却水のほか、雨水や地下水が建屋に流れ込み、それも放射性物質に汚染されるので『多核種除去設備(ALPS)』で放射性物質を取り除く必要があります。

 

 しかし『トリチウム』は除去できないので、処理水を保管タンクに貯蔵しています。

 

 2020年2月に政府のALPS小委員会が地元の公聴会などを経て『希釈海洋放出がより確実に実施できる』と説明・結論づけました。

 

 トリチウム水は『一定程度に希釈すれば海洋放出しても健康被害、環境負荷はない』というのが世界共通の科学的知見です。日本も含め多くの原子力発電所で海洋放出されています。

 

 政府も同案を支持したので先に進むかと思っていたら、地元の反対に加え、新型コロナウイルス対応の不手際や政治とカネの問題などで内閣支持率が急落した場合の解散総選挙への影響も意識して『海洋放出以外の処理方法も検討すべき』という声も上がり、先送りが続いています。

 

 東電も『処分方法に関する国の結論を待って地元を説得する』と決断を政府まかせです」

 

■理由4:発表したロードマップは「希望的観測」だらけ

 

 2011年12月、1〜4号機の廃炉に向けた最初の工程表(ロードマップ)を、政府(当時の民主党)・東電中長期対策会議が決定した。

 

「そこには『2年以内に使用済み核燃料の取り出しに着手、20〜25年後までに溶け落ちた核燃料を取り出し、30〜40年後までに原子炉施設を解体し廃炉を終える目標』とあります。

 

 2021年末までに『溶融燃料を取り出し始める』とありましたが、当時から識者は、『甘い見通し』と指摘していました」

 

 2013年6月、政府と東電などの廃炉対策推進会議が改訂版ロードマップを発表した。

 

「1、2号機は、最も早いケースで2017年度に使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始め、2020年6月に原子炉から燃料デブリの取り出しを始める。

 

 3号機は、最短で2021年度下半期から燃料デブリの取り出しを開始するとありましたが、やはり楽観的な見通しでした。記者会見でも疑問が上がりましたが、東電は見通しというか希望的観測を語るだけでしたね」

 

 現在のロードマップはどうなっているのか。

 

「2021年2月に発表された東電の対策概要では、1号機の使用済み核燃料取り出しが『2027年度から2028年度に取り出し予定』と大きく後退しました。

 

 1〜3号機からの燃料デブリの取り出しも、まだスタートラインにも立てていないのに『30〜40年後には廃炉を完了』とあり……とても現実的ではないです」

 

■理由5:燃料デブリ取り出しは不可能なミッション

 

「1〜3号機には燃料デブリが総量で880トンあると推測されています。一日に100kgを取り出したとしても24年かかります。

 

 しかもこれを取り出すには最終的に『シールドプラグ』という建屋の蓋を開いて、さらに格納容器の蓋も開けて取り出すのですが、2、3号機では蓋の裏側すら毎時数シーベルトの高い放射線量がみられ、蓋を開ける目途すら立ちません。

 

 さらに取り出した燃料デブリをどこに保管するのかも問題です。専用のキャスク(容器)を作って保管する方法を模索中ですが、そのキャスクを最終的にどこに置くのかの論議もありません。

 

 いまでは誰もが『燃料デブリの処理を30年、40年で終わらせることは不可能だ』と思っていますが、誰もそれを言わない。思いたくありませんが、『研究を続ける』と称して、補助金や研究費を受け取る“廃炉利権”を手放したくない人がいるのではないでしょうか」

 

 この状況下でもっとも心配されることは何か。吉野記者はこう断言する。

 

「地震、津波、台風です。3・11クラスの地震が起きたら建屋の崩壊や格納容器のさらなる損傷が心配です。

 

 津波が起きて、引き波で沖まで流された汚染水タンクが再び陸に押し寄せ、原子炉建屋を破壊することもあり得ます。

 

 そういった被害を抑えるため防潮堤の建設を急ぐとともに、建屋全体を頑丈にする手段を講じる必要があると思いますが、議論をしている様子はありません。2月13日の地震は、誰もが肝を冷やしたはずです」

 

 状況はまさに待ったなしである。

 

<<福島第一原発「廃炉」ロードマップの変遷>>

【2011年12月発表】
●2年以内に4号機の使用済み燃料プール内の燃料取り出しを開始
●10年以内に全号機の使用済み燃料プール内の燃料取り出し終了。および燃料デブリ取り出し開始
●20〜25年後までに燃料デブリの取り出し完了。30〜40年後までに廃炉措置完了

 

【2013年6月発表】
●1号機は2017年度下半期、2号機は2017年度下半期、3号機は2015年度上半期、4号機は2013年11月までに使用済み燃料プール内の燃料取り出し完了
●1号機は2020年度上半期・2号機は2020年度上半期、3号機は2021年度下半期までに燃料デブリ取り出し完了

 

【2021年2月発表】
●1号機は2027年度〜2028年度、2号機は2024年度〜2026年度に使用済み燃料プール内の燃料取り出し開始
●燃料デブリの取り出しについては各号機とも、具体的な年月日の表記はなし。原子炉格納容器内部調査・技術開発の継続と表記

 

写真提供・吉野実

 

(週刊FLASH 2021年3月23日号)

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