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スエズ運河の離礁作業、29日にやらねばならない「絶対の理由」があった
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.03.30 18:07 最終更新日:2021.03.30 18:15
スエズ運河で座礁した超大型コンテナ船が、現地時間の3月29日午後3時ごろ離礁に成功し、6日ぶりに運河の通航が再開された。
数隻の浚渫船で泥をかき分けるなどして部分的に浮いていた船は、11槽のタグボートに引かれ、ようやく離岸に成功。その瞬間、周囲の船たちが一斉に汽笛を鳴らし、まるで新年を迎えたときのように喜んでいた。
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実は、この離礁作業は、29日におこなわなければならない「絶対の理由」があった。いったいどういうことか、気象予報士の白戸京子さんが教えてくれた。
「スエズ運河の潮汐を調べてみると、3月で最も潮位の高くなる日が29日なんです。ちょうど満月の大潮にあたり、干満の差が激しい1日となります。離礁作業はこの日の満潮時をターゲットにして進められました。
29日の潮位は午前5時46分に50cmで最低を記録し、午前11時49分の満潮時に2m20cmとなります。つまり、早朝に干潮を迎えた後、水位が上がり始め、昼前には1.7mも潮位が高くなるんです」
実に、大人の身長ほども水位が変わることになる。
逆に、3月で最も潮位が低いのは3月22日で、29日に比べると1日平均で80cmほど潮位が低い。コンテナ船が座礁したのは、翌23日朝のことだった。この日は昼にかけて潮位がどんどんと引いていき、再び満潮となったのは午後6時7分である。
「気象の面でも悪条件が重なりました。当日は強風で、障害物のない水面は特に風が強く吹きやすい。砂漠地帯のエジプトでは、どこからともなく砂が舞い、砂嵐が起こり、視界が悪くなるはずです。スエズ運河庁の長官は『風速20mを超えていた』と答えています。
ちなみに気象庁では風速20m未満を『強い風』、それ以上を『非常に強い風』と定義しており、なにかにつかまっていないと立っていられない、道路標識が傾く、通常の速度で車を運転するのが困難になるような風とたとえています」(白戸さん)
台風の基準になる風速は17m以上だ。だとすると、長さ400m、高さ73mと20階建のビルに相当する巨大な船に、台風レベルの強風が吹きつけていたことになる。船の設計上は想定されている事態だろうが、かなりのパワーだ。実際、重量20万トンを超える船の船首は、運河の壁に5m近くも潜り込んでいた。
気象衛星からも確認できるほど大きな船が、完全に航路をふさいだ光景は、世界に大きな衝撃を与えた。ガソリンが値上げされるのでは、再びトイレットペーパーがなくなるのでは、とSNSは大騒ぎになり、株価も大きく変動した。
一方で、「船に大量の風船を結びつけろ」「ヨーダの力を借りよう」「ゴジラを連れてこい」など、非現実的な救出アイデアも次々と寄せられていた。
船の渋滞の実況中継が人気を博すなどお祭り騒ぎだったが、多くの人々が解決を模索したことは間違いない。だが、今回の救出劇で、一番の立役者は、大人の身長分も変化した自然の潮汐だったのだ。