筆者はカリフォルニアに住んでいるが、先日、FEMA(合衆国連邦緊急事態管理庁)が展開した大規模なドライブスルー会場で、J&J(ジョンソン・エンド・ジョンソン)のコロナ・ワクチンを受けてきた。
場所はMLBオークランド・アスレチックスの本拠地である球場の駐車場である。フリーウェイを降りてすぐの場所に位置しており、同じ出口で降りた車の多くが接種会場へ向かうように見えた。
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駐車場の入口にチェックポイントがあり、ここで「ワクチンを受けに来たのか」「予約と身分証明書はあるか」「マスクを着用してくれ」の3点を確認。
ひとつのテントにおよそ20台の車が入り、全員が一気に袖をまくり上げて注射を受ける。接種の前には健康に関する簡単な質問とJ&Jのワクチンである旨の説明を受けた。
接種後、車のワイパーに時間を書いた板が挟まれる。接種後のリアクションを見るため、隣接したスペースで15分待機しなくてはならないのだ。所要時間は待機時間を含めて25分。この場所では1日に7500人を処理しているという。
筆者は接種後、CDC(疾病予防管理センター)の予防接種カードを受け取ったが、アメリカでは名前や接種日を記入した、この厚紙カードが大活躍している。
1800年代後半から米国入国の際に天然痘の予防接種の証明書が使われ、その後、学校や職場などでワクチン接種の証明を要求するところが増えた。今ではインフルエンザなど何かの予防接種を受ければ、専用カードに日付などが記入されるのが一般的である。
現在もアフリカや南アメリカでは入国や乗り継ぎの際、予防接種証明書を要求される国があり、WHO(世界保健機関)でもイエローカードと呼ばれる証明カードを使用するよう推奨している。
そうしたなか、ワクチン接種をデジタル証明する「ワクチンパスポート」の必要性が世界中で叫ばれはじめた。PCR検査や過去の感染情報も記録できるし、偽造ができないため、導入が世界的に進む見込みだ。
すでにイスラエルがグリーン・パスを発行し、スポーツジムや飲食店の利用時に提示を求めている。中国は海外渡航者向けに国際旅行健康証明書を導入し、EUはデジタルグリーン証明書の計画を発表している。
日本も、まもなく本格運用が始まる「ワクチン接種記録システム」を活用した証明書の発行準備を進めている。
各航空会社はワクチンパスポートの実用化に前向きで、シンガポールは5月1日からIATA(国際航空運送協会)のモバイル・トラベル・パスの受け入れを開始する。
アメリカでは、ニューヨーク州がIBMとともに開発したエクセルシオールというデジタル証明書を全米に先駆けて導入し、イベントなどで運用を開始した。
ただ、逆の動きもあり、テキサス州はプライベート情報保護の観点からワクチンパスポートの義務づけを禁止した。フロリダ州やミシシッピ州、ペンシルバニア州もこの動きに続いている。
ホワイトハウスはワクチンパスポートに関して「国がワクチン情報を持つこともないし、接種を義務づける予定もない。プライバシーなどに関するガイドラインは作成するが、民間が主導すべきもの」という立場である。
国が主導してデジタル証明を発行しないのであれば、入手は個人の判断に任せられることになる。旅行やコンサートなどで必要に迫られない限り、ワクチンパスポートはアメリカであまり普及しないかもしれない。
アメリカでのワクチン接種数は拡大傾向で、週末には1日で400万本を超える新記録を更新した。4月6日現在、18歳以上の人口の41%が少なくとも1回の接種を受けている。
接種カードをクリスピー・クリーム・ドーナツへ持っていくと、毎日1個無料でドーナツがもらえる。ポップコーンを無料でくれる映画館も現れた。
財布にカードを忍ばせて持ち歩く人も多いため、オフィス用品店では無料でカードをラミネート加工してくれるサービスを実施している。昔の日本で流行した「パウチッコ」というやつだ。
ただし、パウチッコすると、将来追加で注射が必要になっても、書き込めなくなる。また、せっかくのワクチン情報が、パウチの熱ですべて真っ黒になって読めなくなることも。アメリカ人にとって、今はまだデジタル化より、パウチッコするかしないかの方が身近な話題となっている。(取材・文/白戸京子)