4月8日、環境省から、飼い主情報などを管理する業者に関する省令が公布された。これにより2022年6月から、ペットショップなどで販売される犬・ねこに、マイクロチップの装着が義務化され、飼い主とペットがデータベース上で紐づけられるようになるのだ――。
7年間、愛猫と連れ添うAさん(42)は、眠れぬ夜を過ごしている。
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「わが家のねこは、家の近くで足を怪我しているのを保護して、そのまま『うちの子』になったんです。保護した当時、動物病院に連れていき、獣医師さんに足の治療をしてもらいました。10万円以上かかり、その後はペット保険にも入って、完全室内飼いにして、ずっとかわいがってきました。
最近、うちのねこが大きな病気にかかり、精密検査を受けることになりました。そのとき初めて気づいたのですが、うちの子にはマイクロチップが入っていたのです。つまり、もともと誰かの家の子だったということです。あまりのショックに、言葉を失ってしまいました」
マイクロチップの情報は、獣医師が照合すべきだが……。
「獣医師さんも7年間、私がずっと、うちのねこをかわいがっていたことを知っているからか、『とりあえず、治療を優先しましょう』と言ってくれました。
でもそのとき、疑問がわいてきたんです。『もし、マイクロチップで前の飼い主さんが分かった場合、うちの子を返さなければならないのか』と……。もしそうなってしまったら、私は2度とうちの子に会えなくなるのでしょうか。ねこの具合もよくないのもあり、心配で、心配で……」
マイクロチップには別の飼い主の情報が登録されている。Aさんが7年間連れ添った愛猫は、とくに「マイクロチップ義務化」以降、どうなってしまうのか。東京弁護士会の動物部会で部会長を務める、アーライツ法律事務所の島昭宏弁護士に話を聞いた。
「まず一般論として、法律上では犬・ねこをはじめとするペットは『物』として扱われます。遺失物については民法240条で、拾ったものを警察に遺失物として届け出、公告(警察署の掲示板に提示)から3カ月以内に所有者が判明しない場合、拾得者がその物の所有権を得ることができると定められています」
Aさんの場合、どうなるのか。
「Aさんのお話では、遺失物の届出の有無が定かではありません。届け出ていなかった場合には、民法239条の『無主物先占』が考えられます。無主物とは、所有者のない動産のことで、つまり『誰のものでもない物は、先に拾った人が所有権を得る』という規定です。
また、他人のものであっても民法162条の『取得時効』が成立すれば、所有権は拾得者は所有権を取得します。拾得時に『他人のものであるとは知らず、そのことに過失がなかった』といえれば10年間、そうでなければ20年間です。Aさんの場合、あと3年待つ必要がありますね。
今回のポイントは、ねこを拾った際に『所有者がいない』と考えられる事情があったかどうか。たとえば、耳の一部がカットされている場合、ボランティアなどに捕獲され、不妊手術を受けて野に戻された野良猫であると推認され、このような事情に含まれます。東京のような大都市では、今やねこを外飼いする人は極めて少数なので、地域性も重要になってきます。
ちなみに、マイクロチップが義務化されたあとは、登録情報の確認義務が生じるでしょう。そしてチップその確認を怠ると『過失があった』とみなされ、時効は20年になる可能性が高いですね」(島弁護士、以下同)