ではAさんのように、制度の過渡期であっても、所有者に知らせる義務は生じるのだろうか。
「道義的にはあるとしても、法的にはあるとまではいえません……難しいところですね。Aさんのケースをまとめますと、
1)ねこを拾ったとき、警察に届け出ていない
2)『所有者がいない』と考えられる事情もない
という状況だった場合、所有者に連絡して『返してほしい』と言われた場合には、返還の義務が発生しそうです。ただし、民法697条ならびに同702条により、預かっていた7年間にかかった費用は、所有者に請求できます」
所有権をめぐる飼い主と元飼い主の間のトラブルは、訴訟沙汰になることも少なくないという。
「仮に裁判で、ペットの所有権が前の飼い主にあると確認された場合でも、飼育費や治療代などの費用を、前の飼い主が支払うことを条件にペットを引き渡すという『引換給付判決』が下されることになります」
今回の環境省令は、2019年6月に成立した「改正動物愛護管理法」に基づく。同省令では、マイクロチップの装着義務化に加え、犬・ねこを保護した人に対して、取得の届出である「情報変更届出」の努力義務を課している。
「今回の省令にも、もちろん社会的意義はあります。販売時に入れられたチップによって直近の所有者が明らかになりますので、愛護センターなどに引き取られるペットのうち約8割を占める『所有者不明』の問題が、解決に向かう可能性があります。行政による殺処分の減少にもつながりますし、ペットを棄てれば『遺棄』という犯罪になりますので、抑止効果も期待できます。
Aさんのケースを含め、今までであれば、路上で保護した犬やねこに『マイクロチップが埋め込まれている』などと疑いもしないのは、無理もありませんでした。しかし今後、義務化によってチップの存在が一般に広く周知されたあとは、『飼い主がいるとは知らなかった』とは、簡単には言えなくなるんです。
Aさんのように知らずに時間が経ってしまった場合は別として、今後は、保護したときにしっかり届出をするなり、専門家と相談するなりして、手続き的なものも含めて確認しておくのがベターですね」
ワンニャンたちへの、“愛” を支える制度となることを祈るばかりだ。