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東芝・車谷前社長、元「三井銀行のプリンス」が “倍返し” 辞任…古巣ファンドと共謀 “保身計画” に非難殺到

社会・政治 投稿日:2021.04.20 06:00FLASH編集部

東芝・車谷前社長、元「三井銀行のプリンス」が “倍返し” 辞任…古巣ファンドと共謀 “保身計画” に非難殺到

4月14日午前、自宅を出る車谷氏

 

東芝再生のミッションを完了し、達成感を感じている」

 4月14日、東芝の車谷暢昭社長(63)が、突然辞任した。

 

「辞任発表の会見には車谷氏の姿はなく、社長とCEOを兼務することになった綱川智会長がペーパーを代読しただけ。前代未聞ですよ」

 

 

 そう憤るのは、外資系金融機関の現役調査マン。冒頭の発言が車谷氏の退任の辞だが、実態は “円満退社” とは、ほど遠いようだ。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が解説する。

 

「次期社長を決める指名委員会の委員長でもある社外取締役の永山治氏(中外製薬名誉会長)が、『個人的な理由で辞任された』と突き放した言い方をしており、事実上の更迭だったのは明らかです」

 

 きっかけは、4月7日の日本経済新聞のスクープ。車谷氏が、東芝入りする直前まで日本法人会長を務めていた英投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」から、東芝に対して買収提案があったという記事だ。CVCからの提案書には、「買収後は、現経営体制を維持する」とあった。

 

「東芝の幹部社員を対象におこなわれたアンケートでは、車谷氏への不信任が過半数を超えていたといいます。それを受けて、指名委員会は6月の株主総会で、車谷氏を再任しない方針であることを本人に伝達済みでした。

 

 そこに突如降って湧いたのが “古巣” からの買収提案。あまりに恣意的なタイミングで、車谷氏が臆面もなく居座りの姿勢を見せたのです」(経済誌記者)

 

 日本を代表する企業である東芝に、故・土光敏夫氏(石川島播磨重工業社長などを歴任)以来の、外部から就任した社長となった車谷氏。その経歴を、経済ジャーナリストの町田徹氏が解説する。

 

「車谷氏は、三井住友銀行のなかでは非主流派の旧三井銀行・さくら銀行の出身で、『三井銀行のプリンス』と呼ばれていました。

 

 住友銀行出身だった故・西川善文氏の “長期政権” が問題視されたときは、同じく住友出身で次期頭取となる奥正之氏の右腕として立ち回るなど、おっとりした社風の三井銀行組のなかでは珍しく、目端が利く存在でした」

 

 さらに、2011年の福島第一原発事故の際、車谷氏の名は業界で轟いた。

 

「東京電力の国有化の調整役として、経産省や財務省を取りまとめました。その後、副頭取に出世し、“三井銀行出身者初の頭取候補” といわれましたが、子会社社長就任の内示が出ます。車谷氏はそれを断わり、2017年にCVCに転じたのです」(町田氏)

 

 一方、そのころの東芝は、不正会計問題や、米国での原発事業で巨額損失を出したことで、東証一部から二部に降格。苦境に立たされていた。そのさなかの2018年、東芝再生の切り札として、会長兼CEOに迎え入れられた車谷氏は、“バンカー” ならではの手腕を発揮する。

 

「海外原子力事業からの撤退や、半導体事業(現・キオクシアHD)の一部売却による2兆円の現金化と、白物家電・パソコン部門の売却、さらに7000人規模の大規模リストラを、矢継ぎ早に断行しました。その結果、実質無借金化を達成し、2021年4月には、3年ぶりに東証一部に返り咲かせたのです」(松崎氏)

 

 しかし一方で、巨額損失の処理のため、2017年に6000億円を増資。それを引き受けた海外の投資ファンド(当初は60社)との対立が、激化するようになっていた。事業売却などで得た資金の使い道で、対立したのがきっかけとされる。

 

「増資を引き受けたファンドは、短期的な利益還元を目指す “物言う株主” でした。車谷氏は、利益を配当ではなく、長期的な事業投資にまわす方針でしたが、肝煎り事業としてぶち上げた風力発電は、先行している日立など、日本勢が大苦戦しています。これに今後5年間で、1兆円も投資しようというのですから、無謀の極みです」(前出・調査マン)

 

 相次いで高収益部門を売却し、2020年3月期の最終損益が1000億円を超す赤字になった東芝にとって、コスト削減以外に生き残る道を見つけることが急務だった一方で、従業員はコスト削減に苦しみ、明日の見えない茨の道を歩んでいた。町田氏は、車谷氏の保身を批判しつつ、CVCの買収提案には別の意図を見て取る。

 

「東芝が40%の株を持ち、かつてはお荷物といわれていたキオクシアHDが、バイデン米大統領が半導体の安定した調達体制を整える政策を表明したことで、注目されているのです。

 

 今の計画では、保有株を売却して “物言う株主” に還元する方針ですが、CVCの買収によって、そうした株主を一掃すれば、当面は株を売る必要はなくなり、東芝の収益を支えてくれるかもしれません」

 

 かつて東芝が冠スポンサーを務めたドラマ『半沢直樹』は、企業に乗り込んだバンカーが、現場社員らと汗をかきながら、再建を果たしていくストーリーだった。一方、東芝に乗り込み、多くの手柄を誇った車谷氏は、自己保身に走り、不信を買った。そして、“倍返し“ の解任を突きつけられ、東芝を去ったのだ――。

 

写真・時事通信

 

(週刊FLASH 2021年5月4日号)

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