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庶民が怒った「肉なし日」…日本人はいつから肉好きになったのか/5月8日の話

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.05.08 06:00 最終更新日:2021.05.08 06:00

庶民が怒った「肉なし日」…日本人はいつから肉好きになったのか/5月8日の話

 

 1941年5月8日、戦時中の食糧難を理由に、日本で初めての「肉なし日」が実施された。毎月8日と28日の2回、精肉店や飲食店で肉の提供が禁止された。その後、禁止日は月4回になるが、代わりに「鯨テキ定食」が大ヒットしたという。

 

 

 日本の肉食の歴史は意外と浅い。江戸時代までは基本的にタブーとされており、公的に肉食が許されるようになったのは明治の初めだ。『明治天皇紀』では、1872年1月26日に明治天皇が初めて牛肉を食べ、「肉食の禁」が解かれたとされている。

 

 生活史研究家の阿古真理さんは、戦前・戦後の肉食文化についてこう語る。

 

「戦前は生産力がなかったため、庶民にとってお肉はめったに食べられない御馳走だったんです。いわゆる中流とされるサラリーマン層はときどき食べていたようですが、戦前のサラリーマンは10%もいなかったというデータがありますから、大衆に行き渡っていたとは言えません。

 

 ですから『肉なし日』に対しても、鼻白んでしまうようなムードが漂っていたようです。当時、山川菊栄という評論家が、『肉なしデーと言うなら、庶民に肉ありデーを作れ』なんていう記事を書いているぐらいです。

 

 肉食が本格的になるのは、戦後の高度経済成長期からです。

 

 畜産や酪農が盛んになり、生産量は一気に増えます。1960年代には短期間で出荷できる若鶏『ブロイラー』が普及したり、採卵鶏として有名な『白色レグホン』も導入されたりと、大量生産が可能な状況が整ってきたんです。お肉や乳製品たちが、徐々に庶民の食卓に並ぶようになります」

 

 キッチンの環境が大きく変化したことも、肉食の定着に影響を与えた。

 

「『台所革命期』と私は呼んでいるんですが、土間のカマドで火を焚く時代から、キッチンでガスの火を使って調理する時代に変わっていきます。

 

 火が安定するようになりますし、冷蔵庫のような家電も入ってくる。テレビや主婦雑誌で、いろんなレシピの情報も入ってきます。スーパーもあちこちに普及して、食品事情は格段に上がったんです。

 

 戦後まもなく、日本人の栄養不足解消のため、厚生省が栄養課を設置するなどの施策を取っています。そうした状況下、肉でタンパク質が摂れ、なおかつ目新しさもある洋食や中華料理が庶民に広まっていくんです。

 

 社会全体が目まぐるしく変わっていくタイミングでしたから、食卓の変化にも、みんなポジティブだったんですね」

 

 日々の食事に肉が入り込むようになってからまだ半世紀程度だ。それでも、日本ならではの肉食文化も育ちつつあるという。

 

「いま日本の肉食文化は、オリジナルの何かを作ろうとしている段階にあると思います。

 

 たとえば、この10年ぐらい『熟成肉』が流行っていますが、あれは肉をどうやってより美味しくできるか、という探求心がないと生まれないものでしょう。

 

 日本人は魚を食べてきたので、新鮮なものの方が価値が高いとする感覚が強いんです。そこに熟成という概念が入ってきたのは面白い動きですよね。

 

 リーマンショック後はホルモンブームが来ました。やはり安くタンパク質が摂れるのが大きかったのですが、単品で焼くことが流行って、部位によって味も食感も違うことに気づいた人が多かった。それで肉の多様性に目覚めるんです。

 

 この数十年で、日本人はすっかり肉食民族になったと思います。食べ込んでいるうちに、肉に開眼したんでしょうね」

 

写真・朝日新聞

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