社会・政治
「月収25万円が4割減」沖縄移住した40代男性が直面した「コロナ休業でも手当が出ない!」派遣会社のずさんな実態
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.05.10 19:50 最終更新日:2021.05.12 19:18
「一時は手取りで25万円ほどになった収入も、今では15万円いけばいいほうです。そこから国保も国民年金も払っていますので、手元に残る金額はわずかです」
そう語るのは、沖縄県の外資系ホテル「H」で従業員送迎の運転手を務める岡野天平さん(42)。2020年の観光客が、過去最悪の前年比72%減(258万人)となった沖縄で、苦しい生活を強いられている。
【関連記事:ピース綾部祐二「東京には戻らない」NYの収入源を明かす】
「2020年のゴールデンウィーク(GW)は、緊急事態宣言中ということもあり、ホテルの客室稼働率は10%以下になりました。Go Toトラベルの時期を除き、観光はずっと低調です。それでも、2021年のGWは、稼働率90%を見込んでいたのですが……」
「今年こそ」という願いも虚しく、政府は新型コロナウイルスの「まん延防止等重点措置」を発令。ホテル「H」でも、GW期間中だけで100件以上のキャンセルが出たという(取材時)。観光に依存する沖縄県が、政府の無策の犠牲となっている格好だが、岡野さんに追い打ちをかけたのが、所属する派遣会社のあきれた実態だ。
「私が2019年から所属するC社は、東京に本社を構え、関連会社を含めると、全国で約2000人の従業員を抱えています。業務内容は、おもに高級リゾートホテルへの清掃スタッフの派遣。沖縄では、都合13〜14のホテルに人材を派遣し、私が勤めるホテルでは、およそ50人が働いていました」
政府はコロナ禍を受けて、企業に従業員の休業手当にかかる費用を支給する「雇用調整助成金(雇調金)」拡充の政策をとっている。助成率を中小企業に対しては100%に引き上げるなどの特例措置を講じ、解雇や雇い止めによる失業者の急増を抑えるのが目的だ。
「県内のホテルの多くでも雇い止めが生じ、実質的な休業状態です。私も仕事に出られない日が続きました。しかし、会社は『シフトが組めていないだけで、休業ではない。手当を支払う義務はない』の一点張りでした。さらに、私たちが調べると、C社はその時点では雇調金の申請をしていなかったことがわかったんです」
雇用保険には、会社と労働者が負担を折半する失業者向け事業(失業給付の財源)と、会社のみが負担する休業者など向け事業(雇調金の財源)がある。C社は雇調金の申請をしていなかったため、岡野さんに休業手当が支払われることはなかった。
「それだけではありません。私の同僚に、個別面談による不当な退職勧奨が相次いだのですが、みな、失業給付を受けられなかったというのです。その理由は、会社が雇用保険に未加入だったから。さらに私の場合は、手続きをおこなってこなかったのに、給与明細上は、雇用保険料が天引きされていたんです」
沖縄県では、県内の全就業者数約72万6000人中、非正規雇用者が24万1000人とおよそ3分の1を占める(2019年、沖縄県統計課調べ)。沖縄県内でのコロナ禍による解雇や雇い止めは、2021年4月の時点で、把握されているものだけでも2000人を超えている。2月時点の調査では、そのうち約6割が非正規雇用者で、卸売、小売業や宿泊、飲食サービス業に影響が大きいという。
関東地方出身で、大学進学で沖縄に来た岡野さんも、これまでずっと非正規雇用だった。
「経済的理由で大学を中退し、1年ほどあちこち働きながら旅をしたあと、友人が関わる福岡の障害者施設で無給ボランティアを始めました。ボランティアや介護などをして、残りは冷凍倉庫の荷下ろしなどを中心にいろんなアルバイトをしました。沖縄に戻ったのは7年ほど前。時給700円の障害児デイサービス、時給900円のレンタカー会社などで働いてきましたが、結婚を契機に、C社の前にホテル『H』の清掃を手がけていたJ社に入りました」
J社でも非正規雇用だったが、雇用保険や社会保険にも加入し、安心して働くことができたという。だが、毎年おこなわれる入札でJ社はC社に敗れ、ホテル「H」から撤退。岡野さんは業務を引き継いだC社に移籍した。「当然、雇用保険に加入しているものだと思っていた」が、コロナ不況により、C社が雇い止めや解雇をおこなった結果、ずさんな対応がバレたというわけだ。
岡野さんは2020年6月に「うまんちゅユニオン沖縄うりずん支部」を結成。C社から7カ所のホテルへ派遣されている50名以上が参加し、団体交渉の結果、雇用保険加入をはじめ、退職・解雇の撤回、年次有給休暇の付与などを会社に認めさせた。手続きがおこなわれてこなかった雇用保険については、遡って加入することができた。
「それでも、2020年4月から社会保険は切られたままです。そのぶんを引くと、『給与が大幅に下回る』と言われたからです。私自身、非正規に慣れすぎていたのかもしれません。いわゆる就職氷河期世代で、しかも大学中退。結婚が決まったとき、ハローワークに出かけて紹介された口があったんですが、受かりませんでした。ホテルに清掃用具を納入する業者でしたが、『これまで正社員になった経験がない』というのが理由でしょうね」
取材/文・鈴木隆祐