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山手線を「E電」に…史上もっとも短命に終わった死語の誕生/5月13日の話

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.05.13 10:00 最終更新日:2021.05.13 10:00

山手線を「E電」に…史上もっとも短命に終わった死語の誕生/5月13日の話

不評で消えた「E電」

 

 1987年5月13日、国鉄の民営化にともなって誕生したJR東日本で、「国電」に代わる新名称の選考委員会が開かれた。公募した数々の案から、この日、選ばれたのは「E電」という言葉だった。

 

 E電区間は、東京を中心とする通勤各線である山手線、京浜東北線などの16線を指す。しかし、現代社会で「E電」の文字を見かける機会はなく、かつてあった言葉として話題にのぼることすらない。これはいったいどうしたことか。梅花女子大学名誉教授で、日本語学者である米川明彦さんは、「E電は、私の知る限り、もっとも短命に終わった死語だと思います」と語る。

 

 

「国電に代わる言葉ですから、当時は大きく報道されたものですが、まったくもって受け入れられなかったのです。アルファベットと漢字の組み合わせ自体がダサいことに加え、パッと見て何を意味しているのかわかりづらい。JR東日本ですから、『EAST(東)』と『いい電車』といった意味合いを掛けたつもりなのでしょうけどね。

 

 言葉の響きが軽いことから軽薄と感じる人も多く、使われることはありませんでした。発表から約半年後には、読売新聞に『JR東日本のE電と並んで、死語になりかけている「実年」』という見出しが踊るほどでした」

 

 そもそも、E電は公募段階では20位だった。1位は「民電」、2位は「首都電」、3位は「東鉄」。「民電」は、選考委員会の話し合いで「官に対する民の感じが強すぎる」として採用されず、「東鉄」は「鉄道の堅いイメージが残ってしまう」との意見からリストから外された。最後まで残ったのが、「E電」と「首都電」だったという。

 

 1987年5月14日の『朝日新聞』には、当時の選考委員たちのコメントが記されている。

 

○作曲家・小林亜星

 

《E電のEは、East(東)、Everyday(毎日)、Easy(ゆったりした)、Economy(経済)、Energy(エネルギー)、Enjoy(楽しむ)、Extern(通勤、通学生)などのE。もちろん、いい電車の意味もこめられてます。(中略)語呂がいい。いいでん、いいでんと呼んでるうちに、歌でもできそうだ》

 

○写真家・沼田早苗

 

《この名前なら、東北の方がなまって『エーデン』といっても、そう違いはないし、柔らかい感じで、女性にも受けると思う》

 

○JR東日本・山之内秀一郎副社長(当時)

 

《輸入文化もここまできたか、と言われるかもしれないが、あまり変わりばえしないものでも困る。(中略)昔、国電というのも変な名だと思ったが、いつしか定着した。E電にも早く親しんでほしい》

 

 しかし、目論見は外れてしまった。

 

「そもそも、造語が定着するためには、いくつかの要素が必要です。それ以外に言いようがない場合、または感性に合うとか、社会的に納得できるかどうかも大切です。人々が納得できない場合はまず定着しません。

 

 たとえば、『ぶどう酒』と『ワイン』という同じ意味の言葉がありますが、いまは基本的にワインと呼ぶようになりました。ぶどう酒が避けられるようになった理由は、簡単に言えば語感の違いです。ワインという言葉は語感がよく、受け入れられました。反面、ぶどう酒という言葉は語感が古臭く、避けられたわけです」

 

 E電と同じように、造語として世に発表されたものの、すぐ死語になってしまった言葉はたくさんある。

 

「『省エネルック』という言葉がありました。いまはクールビズと言っています。省エネルックは、背広を半そでにしたような、ものすごくダサい格好です。それを政府が推奨したんです。当時の首相もそれを着て宣伝したのですが、まったく流行らずに消えました。

 

 ちなみに、30年ほどたって出てきた『クールビズ』という言葉は、環境省が公募したものです。ウォームビズという言葉が先に作られ、それに合わせてクールビズが採用されました。クールという言葉は『涼しい』以外にも『かっこいい』の意味もありますから、みなさん好感をもったのでしょう」

 

 E電という言葉が消えてしまった現在、それを言い換える言葉もない。

 

「本来、生まれる言葉はほとんどが死んでいきます。残る方が少ないんです。流行語は特にそういうもの。E電のように、ことさらに作り出した言葉が残るのは難しい。E電は、一瞬の花火にもなりきれなかった、悲しい言葉だと私は思います」(米川さん)

 

写真・朝日新聞

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