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東京五輪「アルマゲドン」発言でまた注目…『文春』も「重鎮」と持ち上げるIOC・パウンド委員の正体は「メディアに利用されているだけの古参」

社会・政治 投稿日:2021.05.30 06:00FLASH編集部

東京五輪「アルマゲドン」発言でまた注目…『文春』も「重鎮」と持ち上げるIOC・パウンド委員の正体は「メディアに利用されているだけの古参」

 

「アルマゲドン(世界の滅亡)にでも見舞われない限り、東京五輪は計画通りに開催される」

 

 5月25日、イギリスの新聞『イブニング・スタンダード』の電子版の取材にそう断言し、物議をかもしているのは、IOC委員のディック・パウンド氏(79)だ。同氏はIOCの「最古参委員」という肩書きと、歯に衣着せぬ物言いで、世界中のメディアから東京五輪実施可否のご意見番として、もてはやされている。

 

 

 日本のメディアもご多分に漏れず、その “権威” にあやかっている。『週刊文春』は6月3日号で、「IOC重鎮委員」と持ち上げて、パウンド氏の単独インタビューを掲載。「菅(義偉)首相が五輪中止を求めたとしても、大会は開催される」という同氏の発言を見出しにとり、五輪断行論を展開した。ほかにも朝日新聞などの大手メディアが、こぞって “パウンド詣で” にいそしんでいる。

 

 1978年からIOC委員を務めているパウンド氏は、スポーツ界ではどんな評価を受けているのか。

 

「じつは今のパウンドさんには、IOCにおける実権がありません。何でも質問に答えるので、メディアに利用されているだけの存在です」

 

 そう語るのは、元JOC国際業務部参事で、1998年の長野冬季五輪招致に関わった、スポーツコンサルタントの春日良一氏だ。

 

「パウンドさんは元競泳選手で、1960年のローマ五輪にカナダ代表として出場し、100m自由形のファイナリストになったトップアスリートでした。IOC委員としても、僕が長野冬季五輪の招致をやっていた1991年のころはIOCの副会長を務め、(フアン・アントニオ・)サマランチ会長の右腕として活躍する、バリバリの実力者でした。

 

 パウンドさんの最大の実績は、いまは商業主義と批判されてもいますが、オリンピックのマーケティングの礎を作ったことです。ロサンゼルス五輪(1984年)以降、テレビ放映権料がグンと上がったのですが、IOC側で交渉の先頭に立っていたのが彼です。アメリカのNBCやヨーロッパの放送連盟、NHKといった各国のテレビ関係者と対峙して、テレビ放映権料を100倍にも膨らませました。

 

 同時にドーピング問題にも先頭に立って着手し、WADA(世界ドーピング防止機構)を創設して、初代会長を務めました。さらにCASというスポーツ仲裁裁判所を設立して、スポーツ界におけるいろいろな紛争・訴訟を裁く仕組みを確立させました。125年ほど続くオリンピックの歴史のなかでも、現在のIOCの礎を作った “節目” の人物であるといえます」

 

 実力者だったパウンド氏だが、いまは一線を退いているという。

 

「もちろんオリンピックのことはよくご存知ですし、過去の実績も大きいうえ、IOCという “村社会” のなかの長老ですから、大事にはされています。ただ、いまはまったく実権のある委員会に入っていません。かつて辣腕を振るっていたマーケティングや財務といった、現在のIOC運営の中心からは離れています。

 

 だからこそIOCの立場を考えず、ご自分のご経験とお考えから、好きなことを責任なく言えるんです。また長老ですから、彼が何か問題発言をしても、IOCのなかに文句を言える人はいません」

 

 そんなパウンド氏の立場が、メディアの格好の “餌食” になっている。

 

「メディアは、ほかのIOC委員にはアクセスできませんが、パウンドさんは進んで取材に応じます。そこで質問をうまく変えて誘導していけば、彼も興奮して過激な言葉を使うわけです。その一端が、『アルマゲドンが起きないかぎり東京五輪はできる』という発言です。

 

 内容自体は、正論です。オリンピック憲章上、オリンピックはIOCが持っているもので、誰もそれを侵すことができない。IOCがやるかやらないか言わないかぎり、何も始まらない。だから彼の主張はIOCとしては当然だし、それで『週刊文春』には『菅首相がやらないと言ってもそれは関係ない』と答えてますが、たしかに菅首相がそんな発言をしたら、スポーツの世界に政治が入ってくるわけで無茶苦茶になるわけです。

 

 それを今回のように、東京五輪開催の是非が議論されているタイミングで意図的に打ち出せば、オリンピック憲章を知らない日本の人たちは『何言っているんだ?』となるわけです。そういうメディアの戦略に、パウンド氏は利用されてしまっているんですよ」

 

 パウンド氏の一連のメディア発言について、春日氏には独自の洞察がある。

 

「IOC委員は、自分がやっていた競技の特性が出るといわれていまして……パウンドさんは競泳ですから、前に向かってまっすぐ進むしかできないんです。そのおかげでオリンピックのマーケティングにおいてはガンガン進めましたが、質問を受けたら周囲を見ず、空気も読まずに、まっすぐ答えてしまうわけです。

 

 コロナ禍の最初のころは、オリンピックが中止になるかどうかで、メディアは彼を利用していました。ネガティブキャンペーンにうまく利用されていて、IOC寄りにもIOC批判にもなる。
たとえば当初、パウンドさんは、『IOCでは延期はありえない。中止しかない』と言っていました。これを悪くとらえたら、オリンピック批判になるわけです。

 

『文春』だけではなく、イギリスのBBCや『ガーディアン』、アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』と世界中のメディアが彼を利用して、東京五輪開催批判をおこなうのは、すごく嫌ですね。パウンドさんに『余計なことを言うな』とは思いませんが、メディアには『余計なことを質問するな』と思います。

 

 5月28日放送の『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)に出演させていただいたのですが、田原総一朗さんも人の話を聞きませんし、自分の言いたいことばかりおっしゃるじゃないですか。そして、それが『朝生』の売りになっている。だからパウンドさんは、日本でいえば田原さんのようだと感じます。田原さんには、怒られてしまいそうですが(笑)」

 

写真・時事通信

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