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相手の弱みを握るため「ゴミあさり」だってやる公安警察

社会・政治 投稿日:2016.12.27 06:00FLASH編集部

相手の弱みを握るため「ゴミあさり」だってやる公安警察

 

「事件が表に出てから捜査するのが刑事警察の仕事。公安警察の仕事は事件が表に出たらアウトなんです」

 

 警視庁公安部出身の作家・濱嘉之氏は、公安警察の役割についてこう語る。

 

「公安警察官」とは、警視庁公安部や道府県警の警備部公安課捜査員、各警察署の公安係に所属する警察官たちを指す。殺人や窃盗などを扱う刑事警察と異なり、「反体制派」とされる団体などを日ごろから監視し、情報を集める任務を負う。

 

 対象は日本共産党、カルト的な宗教団体、極左・右翼団体、ロシア、北朝鮮、中国などのスパイ、国際テロリストなど多岐にわたる。

 

 たとえば、5月の伊勢志摩サミットや12月の日露首脳会談といった国際的イベントがあれば、それに合わせて不穏な動きを画策する人々をマークするのが彼らの仕事なのだ。

 

 世間を騒がせたSMAP解散騒動も、公安警察官にかかれば、「事前につかんでいれば立派な公安情報になる」(現役公安警察官)というから驚きだ。

 

「『解散は中国による陰謀』と仮説が立てられる。東京五輪の成功を邪魔したい中国側が、例のマネージャーに資金提供を餌に独立を持ちかけ、五輪イベントからSMAPを外し、日本にダメージを与える……という具合にね」

 

 表に出ないのが、公安警察の仕事。彼らが一日をどう過ごすのか、現役・OBへの取材をもとに再現を試みた。

 

◯6:00~ 起 床

 

◯7:30~ 現場へ
「マル対(監視対象者)」のゴミあさりまでおこなって、生活実態をとにかく洗い出す。また、「基調(基礎調査)」のためにゴミをあさることも。基調とは、カネや女に関する弱みまで握り、協力者にしたい相手の素性をすべて調べ上げることだ

 

◯9:00~「視察拠点」から監視
 反体制派組織のアジトへの張り込みを開始。仲間と無線や携帯電話で連絡を取り合う。音声は「Pチャンイヤホン」と呼ばれる高感度イヤホンで。車はあまり使用せず、監視に適した部屋を借り「視察拠点」を設けることが多い。撮影機器で24時間記録し続ける

 

◯12:30~「協力者」と接触
 食事をおごり、「マル対」の組織内部の人間を「タマ(協力者)」にする。困っている相手にはカネを貸すなど、恩を売ることが重要。一方で「人間関係を醸成させるのに、カネは必要ない」と言う捜査員もいる

 

◯14:00~ 聞き込みなど情報収集
 街の商店などを回り、周囲の変化や不審な人物はいないかと、街の動きに関する情報を聞き込むことも欠かせない。外事担当(外国のスパイやテロリストの担当)なら、外国人が経営する飲食店、立ち寄り先などにも出入りする

 

◯15:40~「マル対」が出てきたらチームで連携して「追っかけ」
「追っかけ(追尾)」開始。多いときは数十人で追い、「マル対」と目が合った者から現場を離脱する。「マル対」が電車に乗るとみんなで乗るので、駅で「マル対」と捜査員がいっしょに降りたら電車がガラガラに、なんて話も。
「マル対」の顔が判別しにくい場合は、相手の靴をよくチェックして追う。もし見失っても、立ち寄り先の座敷席などにいれば、脱いだ靴があれば、そこにいることが確認できる

 

◯16:25~ 「マル対」が男と接触
 今まで見たことのない人物が……。不穏な行動に出る兆しかもしれないが、新規の「面割り(「マル対」の顔や素性を割り出すこと)」ができたのは収穫だ。「追っかけ」も気づかれていない様子。昔は新規の面を割った褒美に、上司が自腹で「飲みに行ってこい!」と小遣いをくれたことも

 

◯18:00~ さらに情報収集
 情報はいくら集めても集めすぎることはない。多忙な時間を工面して、さまざまな勉強会や講演会、会合に顔を出す。人が集まる場所に情報は集まる。もちろん、自分の担当分野が関わる組織の人間が来るイベントは必須だ

 

◯21:00~ 報告書作成
 自ら検挙することが少ない公安警察官にとって、仕事の評価を決めるのは日々の報告書。どんなに酔っ払っていても書かなくてはならない。報告書は複数の上司に回覧され、出来のいいものは、警察庁長官や内閣官房長官まで届く

 

◯23:00~ 帰宅・就寝

 

 仕事の基本について、前出の現役公安警察官がひと言で解説する。

 

「世の中を震撼させるような出来事、事件が事前に察知できる情報を、報告するようつねに求められている」

 

 息がつまりそうな日常だが、追尾などの作業がない日は「とくに案件を抱えていなければ、8時30分に出勤し、17時15分に退勤するときもありますよ」(別の公安警察官)という。

 

 では、仕事のやりがいは? あるベテラン公安警察官はこう答える。

 

「俺にとって公安の仕事は人生をかけたゲームみたいなもの。集めた情報を分析し、物事の本質を捉えることができたら、こんなに楽しいことはない」

 

 やってみたくなってきた……かも?

(週刊FLASH 2016年12月13日号)

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