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すべてのカメラマンが「いつかたどり着きたい」土門拳賞、いま大人が見るべき写真とは
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.06.30 16:00 最終更新日:2021.06.30 16:00
スマホのカメラの性能が格段にアップし、誰でも手軽に高画質な写真を撮れる昨今。そんな時代こそ、シャッターを切るまでに観察力、洞察力を研ぎ澄まして撮る、写真家たちの写真がひときわ光る。
リアリズムに立脚する写真群で、戦後日本を代表する写真家と呼ばれる土門拳。彼を顕彰して、1981年に創設されたのが、「土門拳賞」だ。
プロ、アマ問わず、毎年1月から12月までの間に写真集や写真展などで発表された作品が選考の対象。写真界の直木賞と呼ばれ、珠玉の作品が毎年選ばれている。
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第40回土門拳賞の選考委員で、写真家の石川直樹氏は同賞についてこう語る。
「撮り続けてきた写真群を、どのようにまとめあげたのか、その作品としてのあり方や、作家自身の姿勢が評価される賞だと考えています」
2021年に40年めを迎えた「土門拳賞」。今年は、大竹英洋氏の写真集『ノースウッズ―生命を与える大地―』(クレヴィス刊)に贈られた。
大竹氏は、1999年から北米の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに、野生動物、旅、人々の暮らしを撮影してきた。本作は、その集大成となる自身初の写真集だった。
「もともとジャーナリスト志望でしたが、大学時代にワンダーフォーゲル部に所属して、自然の素晴らしさを知り、人と自然の物語を紡ぎたいと考えるようになりました。あるとき、夢にオオカミが現われて、『野生のオオカミを撮ってみたい』という衝動が生まれて、そのときから追いかけ続けています」(大竹氏、以下同)
世界最大級の原生林が広がるノースウッズに20年通い、オオカミに出会えたのは、ほんの十数回。そのうち半分は、カメラを構える時間などなく、一瞬で逃げられたという。
「オオカミは警戒心が強く、人間に会いたくないんです。彼らの暮らしぶりを撮影できたのは、2018年3月。オオカミに襲われたと思われる鹿の肉が、小川の中にあったので、待つことにしたんです。僕の匂いが届かないように風下に立ち、200mほど離れた木の陰に隠れて6時間ほど。陽が落ちてきたころに出てきました」
一年の3分の1を森の中で過ごし、その時を待った。
「ライフワークとして『ノースウッズ』に通っていますが、まだまだ旅の途中です。東京で育った僕が、どこまで野生のオオカミに近づけるのか? という問いがあるんです。その答えを、自分の人生を懸けて知りたいんです」
土門拳の魂は、脈々と写真家たちに受け継がれている。
(取材FLASH 2021年6月29日・7月6日号)