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カマラ・ハリス米副大統領が語る「なぜアメリカは金持ち優遇国家になったのか」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.07.02 16:00 最終更新日:2021.07.02 16:00

カマラ・ハリス米副大統領が語る「なぜアメリカは金持ち優遇国家になったのか」

写真:AFP/アフロ

 

 女性初、黒人初、アジア系初のアメリカ副大統領になったカマラ・ハリスが、なぜアメリカでは金持ちばかり優遇され、庶民が虐げられてきたのか、その歴史と現状を指摘する。

 

 

 アメリカの人々は、いまでもアメリカン・ドリームを諦めていない。それは間違いない。だが、夜も眠れないのにどうして夢を見ることができるだろう?

 

 

 最低賃金で週40時間働いても、アメリカの99%の郡では、寝室が一つきりのアパートを平均的な賃料で借りることさえできない。どれだけ働いても給料はほとんど上がらないのに、ほかの物価はどんどん上がっていく。息子が病気なのに、医療費の自己負担額をまかなえないとき、誰が夢を見られるというのだろう?

 

 なぜ、私たちの社会はこんなことになってしまったのか? まずはその経緯を振り返ってみよう。

 

 第2次世界大戦後の数十年間は、企業の業績が好調であれば、従業員の賃金も上がっていった。政府も積極的に国民を支援し、復員軍人援護法(GI法)などを通じて無償の教育機会を提供していた。

 

 生産性は飛躍的に向上し、経済は拡大していった。戦後30年間で、アメリカの生産性は97%という圧倒的な伸びを見せた。いまと違うのは、当時はその恩恵を誰もが享受できたということだ。この間、労働者の賃金は90%も上昇した。その結果、アメリカでは世界で最も層の厚い中間層が形成されることになる。

 

 しかし、1970年代から80年代にかけて、アメリカの企業はわが道を行くことに決めた。利益を従業員に還元するのをやめて、自分たちが義務を果たすべき相手は株主だけだと考えるようになったのだ。

 

 大企業の言い分によると、最大の分け前を受け取るべき相手は、会社の一部を所有する人たちであって、実際に会社を動かしている人たちではないということになる。そのため、1973年から2013年にかけてアメリカの生産性は74%も伸びたにもかかわらず、従業員の賃金はたったの9%しか上昇しなかった。

 

 1980年代に、この方針を共和党の経済観の中心に据えたのはレーガン大統領だ。法人税をカットし、株主の税金もカットする代わりに、最低賃金の引き上げには反対する。

 

 というより、最低賃金という発想そのものに反対する。労働者を代弁してワシントンで精力的に活動していた労働組合も解体する。企業に対する政府の監視を緩める一方で、一般市民に及ぶ被害には目をつぶる。

 

 かくして、身勝手と強欲が支配する新しい時代が幕を開けた。この新しい行動原理は恐ろしいほどの効果を上げ、企業の利益は急上昇している。

 

 一方で、アメリカの労働者はこの40年間、ほとんど昇給を経験していない。にもかかわらず、CEOたちは恥知らずにも、平均的な労働者の300倍もの稼ぎを得ている。

 

 経済成長の目的とは、みなで分け合うためのパイを大きくすることにあるはずだ。労働者の手に残るのがパンくずしかないような経済が、果たして経済といえるのだろうか?

 

 このような状況下で私たちは21世紀を迎えた。いまやアメリカ国民は、自分たちではどうすることもできない2つの力の板ばさみになっている。

 

 一方ではアウトソーシングやオフショアリング(海外への事業移転)が製造業を破壊し、他方では大恐慌以来最悪の不況が国を襲った。突如として仕事はなくなり、地域社会はゴーストタウンと化した。

 

 こうした時の流れの深刻さを、私は何通もの手紙のなかに見て取った。62歳のある男性は、世界金融危機に端を発する大不況で資産のすべてを失った。老後の蓄えはゼロなのに、働くことのできる期間はどんどん残り少なくなっている。

 

 また、ある夫婦は、家族全員が健康に問題を抱えていると訴えてきた。月々の家賃を払うのに精いっぱいで、医療費にまで手が回らないという。こうした人たちは、いますぐに助けを必要としている。待っている余裕などないのだ。

 

 1980年代以降は、立場の弱い人々を利用し、しばしば破滅に追いやることで儲けようとする企業も続出した。「労働者を犠牲にしてでも株主のために価値を創造する」という、彼らのコーポレートガバナンスの中核思想そのものが、多くの弊害を生んでいる。

 

 たとえば、株価を上げるために、経営陣が自社の株式を市場から買い戻す「バイバック」と呼ばれる手法がある。これにより、株価が急上昇することもめずらしくない。百歩譲ってバイバックに妥当性があったとして、近年、この手法がいかに極端なかたちで使われるようになったかは、認識しておく必要があるだろう。

 

 2003年から2012年にかけて、S&P500(アメリカの代表的な株価指数)の構成企業は利益の91%をバイバックと株主への配当に費やした。つまり、研究開発や従業員の賃金など、会社そのものに投資する余地は9%しか残らなかったということだ。

 

 その結果、何が起きたか? アメリカの上位1%の富裕層は、国全体の富の40%(約40兆ドル)を所有するようになった。彼らにとっては喜ばしいことだろう。

 

 しかし、中間層にとっては経済的な悪夢でしかない。非営利団体〈ユナイテッド・ウェイ〉が行った調査によると、アメリカの43%の家庭は、住まい、食事、子育て、医療費、交通費、携帯電話料金といった、ごく基本的な支出をまかなうのにも苦労している。

 

 何百万ものアメリカ人がかぼそい糸にぶらさがっているような状況で、ホワイトハウスはその糸を切るハサミに手を伸ばした。2017年、トランプ政権は減税の必要のない人々に対して減税を行い、税金を払う余裕のない人々に対して増税を行った。

 

 ACA(オバマケア)を改悪し、保険料を上昇させた。食料品から自動車まで、国民が購入するあらゆるものが値上がりする危険をかえりみず、貿易戦争を引き起こした。

 

 労働組合を弱体化させるのに熱心な判事たちを指名した。運輸保安庁職員、食品検査官、パークレンジャー(自然保護官)、医療従事者など、あらゆる公務員の昇給を取りやめた。さらにはネットの中立性を廃止し、インターネット企業が人気のあるコンテンツに割増料金を課したりできるようにした。

 

 国民にとっては、とうてい納得できない請求書が新たに追加されたことになる。

 

 

 以上、カマラ・ハリス著『私たちの真実 アメリカン・ジャーニー』(光文社)をもとに再構成しました。ジャマイカ出身の父とインド出身の母の間に移民の娘として生まれた彼女は、いかに「ガラスの天井」を打ち破ってきたのか?

 

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