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ドラマをジェンダー視点で観てみよう『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』でセクハラを知る

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.07.03 16:00 最終更新日:2021.07.03 16:00

ドラマをジェンダー視点で観てみよう『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』でセクハラを知る

 

 ジェンダーに基づく諸問題は、国際社会や各国政府が取り組む政策課題です。日本では、内閣府男女共同参画局が中心になり、5年ごとに「男女共同参画基本計画」を作っています。2020年12月末に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画(以下、計画と略します)」でカバーしている論点の多くは、以下に紹介するドラマのテーマとも重なります。

 

 いくつか例を見ていきましょう。

 

 

 まず、新型コロナウイルス感染症の影響です。世界的に見て、女性は男性と比べて賃金が低く、不安定な仕事に就いていることが多いため、外出自粛の影響を強く受けており、これは計画の前文で触れられています。

 

 また、計画の第7分野「生涯を通じた健康支援」の中では「医療分野における女性の参画拡大」の重要性を述べています。これらの問題提起は、カナダのドラマ『アウトブレイク─感染拡大─』(2020)を見ると、ピンとくるはずです。ドラマのヒロインは緊急衛生研究所所長であり、現実世界の新型コロナと酷似したウイルスに見事に対応していくからです。

 

 アメリカから始まり世界に広がった、性暴力告発のMeToo運動は、日本のジェンダー政策にも影響を与えました。計画の第5分野「女性に対するあらゆる暴力の根絶」は、性暴力・性犯罪対策の推進などを扱っています。ここで記される問題意識と対策はアメリカのドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』(2017)の扱うテーマと重なります。

 

 世界中、どの国でも起きているレイプやDVといった問題に政府機関がどう対応すべきか、ドラマを見た後に計画を読むと、何かヒントを得られるかもしれません。

 

 子どもに対する暴力対策の重要性も、この第5分野に記されており、カナダのドラマ『アンという名の少女』(2017)が提起する諸問題とかみ合っています。同じ第5分野では職場や就職活動において女性が被害を受けることが多いセクシャルハラスメント防止対策についても書かれています。

 

 読者の中で、実際にはセクハラを見聞きしたことがない方は、韓国ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」(2018)を見ていただくと、被害者の置かれた状況や心理を理解できるはずです。舞台は韓国企業ですが、日本企業でも非常によく似た問題が起きています。

 

 ジェンダーとは、社会的・文化的な性差のことですから、男性の問題でもあります。

 

 計画の第2分野「雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和」は、女性が本当の意味で活躍できるジェンダー平等社会を作るために重要です。日本のドラマ「私の家政夫ナギサさん」は、元製薬会社の会社員でハードワーカーだった男性が家政夫に転身するお話です。今の働き方を男女ともに変える必要があることを、心温まる人間ドラマの中で伝えてくれます。

 

 また、アメリカドラマ『サバイバー:宿命の大統領』(2016)やデンマークのドラマ『コペンハーゲン/首相の決断』(2010)は大学教授や政治家として忙しく働く男性が、当然のように家事や育児を担う様子を描いています。

 

 日本は男女の家事育児格差が、他の先進国と比べて大きく、それが女性の就労継続や昇進を難しくしています。「ナギサさん」が提示した課題を、欧米諸国がどう解決しているか、いくつかのドラマを併せて見ると展望が開けてくるのではないでしょうか。

 

■「集団主義」の韓国ドラマと「個人主義」の欧米ドラマ

 

 このように色々な国のドラマをジェンダー視点で見ていくと、文化を超えて共通する課題に気づくはずです。さらに、比較の視点を持ってドラマを視聴すると、国や文化圏による「違い」が見えてくるのも面白いところです。

 

 特に韓国と欧米のドラマを比較してみて強く感じたのは「集団主義」と「個人主義」の対比です。

 

 多くの韓国ドラマでは、親が子どもの人生に過剰に介入します。『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』、『私の名前はキム・サムスン』(2005)、『ミスティ~愛の真実~』(2018)では、30代、40代になった子どもに実の母が「結婚しろ」と毎日のようにプレッシャーをかけ、姑が「子どもはまだか」と言ってきます。

 

 熱心を超えて教育虐待に至る『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』(2018)のような例もありました。

 

 かたや、あくまでもドラマで描かれる世界観に限った話ですが、欧米、具体的にはアメリカ、カナダ、デンマークのドラマでは、ヒロインもヒーローも、個人として生きているのです。

 

 彼・彼女たちにとって大事なのは、第一に自分、第二に配偶者、並んで子ども。自分の選択によって形成した核家族を中心に物事を考えます。

 

 主婦を描いた『ビッグ・リトル・ライズ』から女性首相を描いた『コペンハーゲン』まで、就労や家族形態は様々ですが、彼女ら・彼らは重要な意思決定をする際、自分の意思を最優先しています。

 

 その次に必ず出てくるのが配偶者です。仕事で新しいポジションを得た時は、妻や夫に真っ先に話をします。そして子どもがいる場合は、どんなに忙しくても、子どもの学校や心理状態を気にかけます。

 

 つまり、欧米のドラマが描くのは、徹底した個人主義と核家族の世界観です。成人した男女が重視するのは、何より先に自分が作った家族であって、親はまったく関与しないか、登場しても子どもの意思決定には影響を与えません。

 

 韓国ドラマでは定番キャラの「結婚しろ」とうるさく言う母親や「子どもはまだか」とせっつく姑は、欧米ドラマには出てきません。もし、仮に登場するとしたら「毒だから縁を切った親」という位置づけになるでしょう。

 

 このように、ジェンダー視点でドラマを見始めると、考えることがたくさん出てきます。現実のある側面を映し出すドラマ視聴を通じて、私たちを取り巻く社会を考え、他の国や文化との共通点や相違点を考えていければ、一味違ったドラマの楽しみ方ができるのです。

 

 

 以上、治部れんげ氏の新刊『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』(光文社新書)をもとに再構成しました。ジェンダー視点でドラマを見れば、世界のいまが見えてきます!

 

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