社会・政治
子どもを育てると損をする…日本にはびこる「子育て罰」すぐに廃止を
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.07.28 16:00 最終更新日:2021.07.28 16:00
2020年11月6日、「児童手当の特例給付、廃止検討 待機児童解消の財源に」(産経新聞)という報道が流れました。高所得子育て世帯が受け取れる児童手当(高所得層の場合、子ども1人年6万円)をなくして、待機児童の財源にしてしまおうというのです。
この報道に、私は怒りを禁じえませんでした。菅義偉総理大臣は、10月26日の所信表明演説で「長年の課題である少子化対策に真正面から取り組み、大きく前に進めてまいります」と強調しました。
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その所信表明演説のわずか11日後に打ち出された高所得子育て世帯の児童手当廃止の方針に、これまでの自民党政権の総理大臣と同様に、本気で少子化を解消する気がないのだと感じたからです。
もともと日本の子育て層は、年金・社会保険料の負担が高齢者世代より高いうえ、子どもまで育てて国に貢献しているのに、児童手当や授業料無償などの恩恵を十分に受けることができていません。
子どもを産み育てるほどに生活が苦しくなっていく、子育てをしながら頑張って働いている中高所得層ほど追い詰められる、「子育て罰」の国なのです。
中高所得層の児童手当を削って待機児童対策にまわすことは、子育て世代内部での分断を深め、親の所得によって子どもが差別される、分断と排除の政策でもあります。
とくに2021年度現在に小学校3年生以上の子どもを持つ世代は、幼児教育の無償化の恩恵をまったく受けていないため、純粋な負担増になる「はずれくじ世代」となってしまいます。
また、いったん高所得層の児童手当を削れば、そのうち、中所得層の児童手当も削られることになるはずです。以前から財務省はその方針を打ち出していました。つまり、財務省は子育て罰をどんどん厳罰化しようとしているのです。
さらに、自民党と官邸によって2021年4月から始まった「こども庁」構想による総理、官邸、一部の自民党幹部の子どもの政治利用にも、怒りを禁じえません。
ヒトもカネも増やさずに作る「こども庁」は、子どもを票取りの道具に使っているようにしか見えないからです。
■低所得子育て世帯こそ「子育て罰」の最大の被害者
「子育て罰」は、中所得層や高所得層の問題だけではありません。そもそも「子育て罰」とは、労働政策や家族社会学の研究者によって指摘されてきた、とくに低所得の子育てする親にあまりに厳しい状況を批判する概念です。
ごく簡単に言えば、子育てする保護者はそうでない大人に比べて賃金が低く、貧困に陥りやすいという課題を表現する「child penalty(チャイルド・ペナルティ)」という概念がベースになっています。
とくに低所得子育て世帯に対する所得再分配が「冷遇」とも呼べる厳しい状況であることを批判しており、ポイントをわかりやすく説明すると以下のようになります。
●日本では所得再分配政策がもともと低所得層(とくに子育て中の働く低所得層)に不利という意味で逆進的である。
●とくにひとり親世帯への再分配は政策的に失敗している。
●日本は先進諸国の中でひとり親世帯の貧困率が突出して高く、シングルマザーに猛烈に厳しい国である。
近年の自治体の子どもの貧困調査や支援団体の調査では、低所得層はひとり親だけでなく、2人親もまた非常に厳しい生活を強いられていることがわかっています。ひとり親が受けられる児童扶養手当は、2人親世帯だと受けることができません。
内閣府が2020年9月に発表した「子供の貧困の状況」によると、子育て世帯の16.9%が食料を買えない経験を、20.9%が衣服を買えない経験をしており、衣食住にも不自由する厳しい状況が明らかになっています。
低所得層もまた、国に税・年金等を取られていても、政府の所得再分配の失敗のために十分な支援を受けられず、そのために食事や服すら満足に買えないのです。もはや所得で判断する「相対的貧困」ではなく、衣食住すら保障されない「絶対的貧困」に近い状態に追いこまれていると言えます。
■国民の半数が「子どもを産み育てやすい国ではない」と考える
こんな国で子どもを産み育てたいと思うでしょうか? 「平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告書」では、「子どもを産み育てやすい国かどうか」について、日本では「そう思わない」(どちらかといえば+全くそう思わない)が52%と、調査対象となった日英仏スウェーデンの中で唯一、否定的回答が過半数となった国でした。
同じ設問について、イギリスは23.8%、フランスは25%、スウェーデンは1.4%にすぎなかった状況とは対照的です。
このままでは、所得にかかわらず、日本はどんどん子育てしづらい、子どもが生まれない国になっていきます。いますぐに、「子育て罰」を止めないといけません。子どもが生まれなくなれば、日本という国に未来はないからです――。
※
以上、末冨芳、 桜井啓太氏の新刊『子育て罰「親子に冷たい日本」を変えるには』(光文社新書)をもとに再構成しました。親子につめたい「子育て罰大国・日本」を「子どもにやさしい国」に変えるための方策を提言します。
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