7月28日、ロンドンで60歳の女性泥棒に懲役5年6カ月が下された。どこにでもある小石を利用して盗んだものは、6億2000万円相当の宝石だった。
2016年、ルル・ラカトシュ容疑者は、ロシアから来た投資家だと名乗り、ロンドンの高級宝石店にやってきた。英語が苦手で、フランス語を使ったが、これは標的に近づくための常套手段だったという。
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ラカトシュ容疑者の狙いは宝石だ。以前から目をつけていたとみられ、購入を匂わせながら、複数回にわたって店と交渉を続ける。
ある春の日、ラカトシュ容疑者はついに作戦を実行した。20カラットのダイヤなど、合計で6億2000万円相当の宝石を手に取り、その輝きや質を確かめ、購入する素振りを見せた。
その後、宝石のひとつひとつを丁寧に包み、鍵付きのポーチに入れて、店のスタッフに渡した。このポーチは、支払いが完了するまで、店で厳重に管理するためのもの。ラカトシュ容疑者から渡されたポーチも、店の金庫で厳重に保管されていた。
翌日、不審に思った宝石店関係者がポーチを調べてみると、そこには宝石の重さと同じくらいになるよう計算された7つの小石が入っていた。
しかし、時すでに遅し。店を出たラカトシュ容疑者は、直後に仲間とみられる女性2名と合流し、宝石の入ったポーチを渡していた。防犯カメラには、変装のために着ていたロングコートや帽子、スカーフを捨て去る様子も映っていた。
ラカトシュ容疑者は、いったいどのように宝石と石を入れ替えたのか。防犯カメラの映像を見てみると、トリックは簡単だった。宝石を入れたポーチをスタッフに渡す直前、間違えて自分のカバンに入れていたのだ。
スタッフから指摘され、あわてた様子でカバンからポーチを取り出し、スタッフに渡す。このとき、あらかじめ忍び込ませていた「偽物のポーチ」と、宝石の入った「本物のポーチ」をすり替えたのだ。
この手口について、事件を担当したロンドン警視庁の関係者は、「綿密な計画性と、冷静かつ大胆な実行力を見る限り、極めて高度な犯行だと言わざるを得ない」とコメントしている。
捜査が始まった時点で、ラカトシュ容疑者は仲間とともにフランスへ逃亡しており、長年、国際捜査が進められた。2020年12月、ようやくフランスで逮捕され、イギリスに送還された。
仲間とみられる女2名の捜査は続いている。そして、盗まれた宝石は1つも発見されていない。60歳の老婆が巻き起こした『ルパン三世』ばりの窃盗劇だった。