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トランプ大統領にカジノで勝った「日本人男」が惨殺されるまで社会・政治 2017.01.14

『「柏木御殿」で血痕を調べる捜査員。事件は迷宮入り』

『「柏木御殿」で血痕を調べる捜査員。事件は迷宮入り』

 

 海千山千の「勝負師」トランプは、不動産開発そしてカジノ経営にも手を出した。当然、マフィアとの関係が取り沙汰された。事件が起きたのは、1992年1月3日。日本人カジノ長者が自宅で惨殺された。

 

 当時から「マフィア説」「トランプ謀殺説」が噂されたが、2007年に事件は時効を迎え、迷宮入り。本誌は事件を洗い直すため、遺族そしてカジノ業界関係者たちに取材をかけた。トランプと事件の点が線でつながった――。

「トランプと聞いて、忘れかけていた殺害事件を思い出しましたよ。当時は、トランプさんとの関係が盛んに取り沙汰されましたから」

 

 富士山のふもとに広がる山梨県富士河口湖町。長年そこで暮らす72歳の女性が、こんな言葉を漏らした。

 

 1992年1月3日夜、不動産会社「柏木商事」社長の柏木昭男さん(当時54歳)が惨殺死体で発見された。時価50億円ともいわれた邸宅は血の海と化し、のど、胸、首などを二十数カ所、滅多斬りにされた残忍な手口は河口湖町の住人を震撼させた。

 

 当時、事件を取材した記者が語る。

 

「部屋を物色した形跡もないことから、柏木さんにかなりの恨みを持つ者の犯行とみられました。開いていたのは勝手口のカギだけ。手口から見てもプロの犯行と捜査本部はみていました」

 

 たしかに、柏木さんに恨みを持つ者は多かった。河口湖町に住む75歳の男性が言う。

 

「カジノに連れていかれ、『カネがないならいくらでも貸すぞ』と。でもカネを借りたら最後、土地を取られて消えていった住民も多い」

 

 意外に思える柏木さんとドナルド・トランプとの接点。2人を結びつけたのがカジノだ。日本でバブル経済が頂点に達した1990年1月、柏木さんはオーストラリア北部のカジノでバカラ勝負に挑み、29億円もの大勝利を収めていた。

 

「ハイローラー」(高額な賭け金を張る上客)として名を馳せた柏木さんには、世界中の大手カジノからの招待状が殺到した。その一人がトランプだった。

 

 トランプは1982年、アトランティックシティに、カジノを併設する巨大ホテル「トランプ・プラザ」をつくった。

 

 だが、1990年、不動産業界が不況に見舞われると、カジノも苦境に陥る。乗り切るために必要なのが、世界的に有名な「ハイローラー」を招待することだった。トランプにとって、1回20万ドル(当時、約3000万円)、1200万ドル(同18億円)を上限に勝負する柏木さんは、まさにおいしい客だった。

 

 柏木対トランプの第一戦は1990年2月。柏木さんが600万ドル(同9億円)の勝利を収めた。これで「トランプ・プラザ」は極端な資金難に陥り、アトランティックシティでもっとも財政状況の悪いカジノに成り下がった。

 

『トランプは一時はカジノ王と呼ばれた。写真:AFLO』

『トランプは一時はカジノ王と呼ばれた。写真:AFLO』

 

■トランプが犯したタブーが柏木さんを窮地に追いつめた

 

 腹の虫が収まらないトランプは5月に再戦にこぎつけた。そこで1000万ドル(同15億円)の勝利を収めると、トランプは、「ミスターカシワギはじつにギャンブルのプロだ。私は敬意を払います」と言ってのけた。

 

 だが、柏木さんの名を公表したのは、カジノ業界の禁忌を破る行為だった。公に名前が出ることを極端に嫌う柏木さんにリベンジさせず、勝ち逃げするためにわざと公表した、とも報じられた。

 

 大敗が報じられたことで、柏木さんは苦境に陥った。だが、柏木さんはリベンジを心に秘めていたようだ。アメリカの週刊タブロイド紙「ニュース・エクストラ」(1990年11月6日号)は、柏木さんのこんな言葉を報じている。

 

〈これはトランプの勝算と私の運の勝負だが、私が勝つよ。なぜなら私の心は純粋できれいだからね。トランプはいままでに悪いことをしすぎている〉

 

 だが、柏木さんのリベンジは果たされなかった。国際的な博打打ちで、作家でもある森巣博氏が語る。

 

「その後も柏木さんは負け続けたようです。柏木さんが北米やアジア太平洋地区のカジノに頻繁に出入りしていたのは間違いありません。私の知り合いが目撃していますから。やられたぶんを取り戻そうと試みたのでしょう」

 

■柏木さんとトランプを結びつけた背後のエージェント

 

 柏木さんとトランプを結びつけた背後には、カジノに独自のコネクションで金持ちのVIP客を送りこみ、手数料などを得ていたエージェントの存在があった。

 

「バブル紳士たちを各国のカジノにつないでいたのは、地上げなどで彼らと密接なつながりのあった大手暴力団筋でした」(森巣氏)

 

 近年、マカオなどではジャンケットと呼ばれる仲介業者の存在が合法化されている。しかし正規の業者の下には、裏社会の人間たちが連なっているのが現状で、大王製紙元会長をマカオで連れ回していたのもそうした人間の一人だといわれている。

 

 凄惨を極める殺害方法は、北米の地下社会ではコンファメーション(confirmation)と呼ばれる。ある個人が、キリスト教の教義を受け入れたことを内外に公示する儀式を意味した宗教用語だ。すなわち、柏木さんの無残な死は、見せしめのための殺人の可能性が高いのだ。

 

「もちろん、大手カジノの経営者が指示を出すことはありえません。しかし、アメリカでは、負債であれば賭博場のものでも債権として売買可能です。柏木さんが大手カジノあてに振り出した債権を、ヤバい筋が超安値で入手したのではないか。そうでなければ凄惨な殺人の説明がつかない。実際、柏木さんの惨殺後、返済に無視を決めこんでいた連中が、我先に返済したと聞きます。典型的なのが、国会の3バカラ大将といわれた『O、N、O』。『O』の2名はいまも健在ですよ」(森巣氏)

 

 事件は2007年に時効を迎えた。柏木さんの次男に聞くと、「トランプさんが大統領になっていちばんびっくりしているのは父だと思いますよ。天国から、エールを送っているんじゃないですか」

 

 と言葉少なに語るだけであった。

 

「ギャンブルはそれに関わる人間を裸にする」といわれる。柏木さんとトランプも、本性を剝き出しにして戦った。柏木さんに勝ち逃げしたトランプはカジノ経営から手を引いた。そしていま、大統領就任式を待つ。

(週刊FLASH 2016年12月20日号)

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