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注目の若手論客!斎藤幸平「共産主義のすすめ」(3)「エシカル消費」は自己満足…途上国を犠牲にする「帝国的生活」

社会・政治 投稿日:2021.08.12 11:00FLASH編集部

注目の若手論客!斎藤幸平「共産主義のすすめ」(3)「エシカル消費」は自己満足…途上国を犠牲にする「帝国的生活」

「未来のための金曜日」のメンバーとともにストックホルムの国会前でストライキをおこなうグレタ・トゥーンベリ

 

 地球環境を持続させるためには資本主義をやめて経済成長を止めるしかない。そう説くのは、30万部超えのベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)を著した経済思想家の斎藤幸平氏だ。

 

 その壮大なプロジェクトのために、私たち一人ひとりができることは何か。それは、日々の消費行動を改めるとともに大手企業の在り方、そして国の政策に対して声を上げていくことだという。

 

 

 実際に、バルセロナをはじめヨーロッパの都市では、市民の圧力が大企業や政府を動かすようになってきている。持続可能な社会実現の希望は残されているのか、斎藤氏に聞いた。

 

ーー途上国の犠牲に基づく先進国の生活様式を「帝国的生活」と呼んでいますが、私たちはどうすればそれから逃れられるのでしょうか?

 

 資本主義システムのもとにいるかぎり、帝国的生活様式から完全に抜け出すことはできません。「エシカル消費」(倫理的消費)をやってみたり、「エコ」な暮らしを心がけても、程度の差はあれ、結局は自分より弱い立場の人々を踏みつけたままであることに変わりはないのです。

 

 その限りで、児童労働によってつくられたバナナは買わないとか、地産地消のものを選ぼうとか、フェアトレードの輸入品を買おうと努力しても、消費のレベルで終わっては意味がないのです。

 

 状況を変えたいと思うのであれば、資本主義というシステムそのものを変革しなければなりません。そのためには、生産のレベルで企業や国家が変わることを求めるのが、ひとつの道です。

 

 バナナを買わない、というよりも、グローバル企業でどんな労働がおこなわれているのかということを調べ、発信するほうがいい。巨大企業への規制を国に求めてもいい。そうした行動を積極的に起こしていくことで、企業や経済の在り方そのものを変えていくことにつなげていくのです。

 

 同時に重要なのが、誰もがフェアトレードのバナナを買えるわけではないということです。もしフェアトレードの少し高いバナナを買えるのだとしたら、それは裕福でめぐまれているからであり、つまりその金儲けの過程で、別の誰かを踏みつけていることの証です。

 

 それくらい深く帝国的な生活様式というのは私たちの中に入り込んでいます。

 

 完全に自由になることは資本主義の中で生きている限り不可能なのだから、自分はちょっといいものを買っているから自由になれたと思うのはおこがましいし、むしろ多くの人たちが不可避的にこの生活に取り込まれていることを認識して、反省し、共闘していかないといけない。

 

 いくらエシカル消費を掲げたところで、現在実践できない人が大勢います。GUを着ざるを得ない人、忙しくて牛丼を食べるしかない人、コンビニ弁当がないと生活できないタクシー運転手や運送業のドライバーはいくらでもいる。

 

 だからといって、その人たちを批判してはいけない。それは個人のせいではなくシステムのせいなのだから、牛丼を食べていても、政府や企業に対して気候変動対策をしろとかプラスチック対策をしろ、森林保全をしろ、そして何より給料を上げろと声を上げていくべきです。

 

 一人でも多くの人が声を上げてシステムを変えていくことにより、帝国的ではない、連帯的な生活様式を実現する可能性が開けてくると考えています。

 

ーー地球環境を持続可能にするための新しい動き、希望は見られるのでしょうか?

 

 まず気候変動対策という意味では、グレタ・トゥーンベリが始めた「未来のための金曜日」という運動がわずか数年の間に世界的な規模に発展し、その結果として5年前のパリ協定では考えられなかったような野心的な数値を政府や企業が出さざるを得なくなっています。それはもちろん希望です。

 

 ただ、この希望で満足してはいけません。その目標が実現される保障はどこにもないし、現実問題として今年の二酸化炭素の排出量も相当増えると言われています。

 

 世界がいま掲げている目標に対し、残された時間はあまりにも少なく、小手先ではまったく対応できないことを私たちは認識しないといけません。とにかく一刻も早く二酸化炭素の排出量をゼロにするため、社会の全リソースを投入しなければならないのです。

 

 そういう動きは国のレベルではやっと始まったばかりです。しかし、他方で「気候非常事態宣言」を出し、飛行機や自動車で二酸化炭素をまき散らすのをやめ、街そのものも市民のためのものに変えていこうという民主主義的な試みが、欧州の都市では先行して始まっています。

 

 たとえば、バルセロナやアムステルダムです。フランスでも電車で2.5時間以内に移動できる範囲での飛行機利用はすべてやめて鉄道での移動を求める法律ができました。

 

 また、パリでは、市内の自動車の走行速度が30kmに制限されます。日本では考えられない、従来とは異なる動きが生まれてきている。そうしたものを強く求める市民の運動に私は希望を感じています。

さいとうこうへい
1987年生まれ 経済思想史研究者。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想

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