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ピアノがうるさいと母娘3人殺害…「騒音」が大きな社会問題に/8月28日の話
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2021.08.28 10:20 最終更新日:2021.08.28 10:20
1974年8月28日、神奈川県平塚市で、当時46歳の男性が「ピアノの音がうるさい」という理由で、階下に住む一家の母娘3人を刺殺する殺人事件が起きた。日本で初めて騒音トラブルで起きた事件として知られる、「ピアノ騒音殺人事件」だ。
歴史学者の濱田浩一郎さんが、こう語る。
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「男性はもともとかなりの音楽好きでしたが、あるとき隣人から『ステレオの音がうるさい』と苦情を言われてから、自分の立てる音や他人の音に対し、非常に気を遣うようになったといいます。
事件が起きた団地に暮らすようになって2カ月後、階下に4人家族が引っ越してきました。
夫は日曜大工が趣味で、工作音が響くことも多かったようです。3年後には長女がピアノを習い始め、毎日のようにピアノの音が流れるようになります。男性はたびたび苦情を入れましたが、音がやむことはありませんでした。
男性は次第に『ピアノを弾くのは自分への嫌がらせだ』と考えるようになり、殺意を募らせ、犯行に及んでしまいます」
ピアノが置かれた部屋の隣の襖には、「迷惑かけるんだから、スミマセンの一言ぐらい言え。気分の問題だ……」「人間、殺人鬼にはなれないものだ」と走り書きが残されていた。男性はバイクで逃走するも、3日後に自首。裁判で死刑が確定した。
「母娘3人が惨殺されたこの事件は世間に衝撃を与えましたが、同時に騒音問題に悩む人々から『気持ちはわかる』と、一部共感の声も上がるようになりました。当時は高度経済成長期の真っ最中で、一般家庭へ爆発的にピアノが普及した時代です。いまより防音対策や防音意識が低かったことで起きたといえるでしょう」
この事件をきっかけに騒音問題が一気にクローズアップされ、ヘッドホンを利用する電子ピアノや防音装置が発売された。公団住宅も壁を厚くするなどさまざまな対策が始まる。現在は、小学校の運動会や赤ん坊の泣き声も「騒音」としてクレーム対象になる時代。騒音問題の完全な解決は、今後もなかなか難しそうだ。
写真・朝日新聞