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習近平の世界戦略に「崩壊の足音」アフリカを支配するはずが…貸したカネが返ってこない!
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.01.30 06:00 最終更新日:2022.01.30 09:58
1月中旬、英国の経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」に1本の記事が掲載された。見出しを訳すと「中国 アフリカ向け融資にブレーキ」。中国の「中国輸出入銀行」が、これまで力を入れてきた途上国向け融資について「このままでいいのか」と、再検討を始めたという内容だ。
中国はこれまで、アジアインフラ投資銀行などを設立し、インフラ開発を名目に途上国へ巨額を投資してきた。背景には、習近平国家主席が提唱してきた、中国とヨーロッパを結ぶ「一帯一路」構想がある。
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陸路の「シルクロード経済ベルト」と、海路の「21世紀海上シルクロード」を整備し、その経路上にある国々の経済的発展を目指そうというものだ。
「しかし中国は、融資の担保として相手国のインフラの使用権を要求してきました。有名なのはスリランカ。中国からの融資で南部のハンバントタに港を建設しましたが、スリランカ政府の資金難もあって返済が滞り、2017年7月、99年間の港湾運営権が中国に奪われる形になりました。
さらに中国は現在、コロンボの沖合に人工島を作る権利を得て、国際金融都市を建設しようとしています」(中国問題に詳しい評論家の宮崎正弘氏)
近年、中国の融資はアフリカにまで拡大。これに米国や日本は「アフリカ諸国を奴隷にする中国の覇権主義だ」と、警戒を強めてきた。
だが、そんな中国の世界戦略の雲行きが、怪しくなってきたというのだ。
そもそも「日本や欧米は一帯一路構想を過大評価しすぎです。どこかで破綻すると思っていました」と語るのは、東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授だ。
「よく『債務の罠』という表現で、中国が途上国にお金を貸し込んで身動きをとれなくさせている、などと解説されますが、中国の銀行だって財源が無尽蔵なわけはありません。貸したお金が返ってこなくなれば、当然ですが困るのは中国です。今回の『FT』の記事は、適切だと思いますね」
鈴木教授は、この中国の世界戦略を「ヘタクソなファイナンス」とまで言い切る。
「まず、中国がファイナンスしようとしているプロジェクトは、独裁者の権益とか政治的な思惑が透けて見える “筋悪” な案件ばかりなんです。
だから、車が通らない高速道路とか、たいして使われない港のような、まともじゃない担保しか手に入らない。これでは融資からなんのリターンも生まれない。中国にとっては、いわばお金を垂れ流し続けているだけの状態なんです」
「FT」の記事では、例としてウガンダの空港拡張工事に関する融資が紹介されている。前出のスリランカ・ハンバントタ港も、建設はされたものの十分な利益が上がらず、中国の手に渡りはしたが……。
「コロンボ沖の人工島も、マンション群、テーマパークを作ると言っていましたが、まだ1軒も建っていません。スリランカにこんな島を作ってどうするのかと、私は最初から思っていました」(宮崎氏)
途上国への資金援助といえば、日本のODA(政府開発援助)もある。こちらもかつては無駄遣いが批判されたが……。
「近年のODAでは、現地の人たちの求めるものや、産業発展に資するものを中心的にやっていて、成功しているケースもあります。しかし中国のやり方は、途上国側から見れば、お金を借りた挙げ句に港を取られて、返せない借金を背負わされて……と、恨みが募ります。
そんな、誰もハッピーにならない仕組みがずっと続くのか、というのが以前から疑問でした。それで『ヘタクソなファイナンス』と思ったんです」(鈴木教授)
なぜ中国は崩壊するような絵を描いたのか。鈴木教授はその原因を「最初の成功に “乗っちゃった” 」ことと分析する。
「最初の一帯一路構想は、文字どおり中国とヨーロッパをつなげ、そのインフラを整えるというものでした。これはある程度まで成功しています。この成功が、習主席の野心を生んだのではないでしょうか。
人権、民主化を先に言ってお金を貸さないIMF(国際通貨基金)や欧米とは違い、中国は途上国にもお金を貸しました。その代わり中国の言うことをきかせるとか、資源を独占的に輸出してもらうとか、メリットを享受したのです。これが一帯一路の第二期です」
現在、一帯一路構想は最終形に差しかかっているという。
「銀行だけでなく、福建省など省レベルで途上国にお金を貸し込んでいます。投資案件を見つけてきては『インフラを作りました』という実績をため込んでいるのです。
バブル期の日本の銀行が『とにかく業績を上げろ』と、無理やり山の中にゴルフ場を作ったのと似ています。いつかバブルが弾けたとき、結局、傷むのは中国の銀行資産なんです」(同前)
徐々に大きくなる崩壊の足音は、習主席自身にも聞こえているのか。中国を取材するジャーナリストの近藤大介氏は、習主席が最近、“内向き”になっていると指摘する。
「一昨年1月にミャンマーへ行って以来、もう2年も外遊していません。世界戦略にあまり関心がなくなったように見えますね」
その原因はやはり、新型コロナウイルスの流行だ。
「中国は情報の遮断ができるので、海外での失敗のニュースは国民には届きません。習主席が世界に目を向けないのは、国内のコロナ対策のほうが、よほどダメージとなるからです。
実際、いま中国では、大都市でも平気でロックダウンする『ゼロコロナ』政策を取っていますが、これに国民の不満がたまっているのです」(鈴木教授)
北京五輪目前にして、傲慢な大国は内からも外からも軋みつつある。
写真・新華社/アフロ