社会・政治
「テーマあいまい?」識者語る春樹がノーベル賞獲れぬワケ
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2013.10.16 07:00 最終更新日:2020.06.05 15:51
「だめか〜」。 10月10日の夜8時。東京・荻窪駅近くのブックカフェ「6次元」に落胆の声が上がった。村上春樹氏(64)のノーベル文学賞受賞が来年以降に持ち越しとなった瞬間だった。 「川端康成、大江健三郎ならこれほど熱中しませんよ。純文学界から“大衆的すぎる”と批判される村上さんだからこそ、ノーベル文学賞を獲ってほしい。いずれは必ず受賞するはずです」(「6次元」オーナーであり村上春樹研究者のナカムラクニオ氏) ‘06年、ノーベル文学賞の“登竜門”フランツ・カフカ賞を受賞して以来、英国ブックメーカーのオッズでは6年連続で1位。村上氏はつねにノーベル文学賞の最有力候補だ。だが……。ノーベル文学賞に詳しい柏倉康夫放送大学名誉教授(フランス文学)が解説する。 「ノーベル文学賞は権力の批判や社会の暗部、矛盾をえぐり出すなど、作品の持つ社会性が評価される傾向があります。その点で、村上作品のテーマはあいまいという批判があり、受賞を逃し続けているのは、このことも影響したのではないでしょうか」 選考に社会性、政治性が含まれるのは当初から続く伝統だ。文芸評論家で愛知淑徳大学の清水良典教授が言う。 「昨年、中国の作家・莫言(モー・イエン)氏が受賞しましたが、そのときに選考委員が『村上春樹はたいへん惜しかった』とわざわざコメントした。本当だったら村上氏が受賞してもよかったのに、中国政府を牽制する意味で中国人作家に授与したと思うのです」 だが、村上文学の真骨頂は、社会性、政治性を超越した“大衆性”にある。村上氏は今年5月、京都大学での講演会で、愛読者の前に姿を現し、こう語っている。 「人間はそれぞれ自分が主人公の複雑な物語を魂の中に持っている。それを本当の物語にするには、相対化、客観化する必要があるが、小説がやるのは、そのモデルを提供することだ。魂のネットワークを創っていくつもりで小説を書いている」 村上氏の高校時代の同級生たちは口をそろえて、「目立たなかった」「おとなしく、今で言うおたくタイプ」と証言する。村上少年は積極的に他人とかかわろうとしない内向的な性格だったようだ。かつて自身も「ディタッチメント(かかわりのなさ)ということが大事なことだった」と語っている。 しかし’95年に故郷である神戸を襲った阪神・淡路大震災と同年の地下鉄サリン事件に作家として衝撃を受けた後は、「コミットメント(かかわりあい)ということが僕にとってはものすごく大事になってきた」と語り、以降は社会的な問題についても積極的に発言するようになっている。 ノーベル文学賞の条件に挙げられる「社会性」を備えるようになった村上氏。受賞の日は近そうだ。 (週刊FLASH 2013年10月29日号)