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ロシア経済制裁による原油高に光明…エコノミストが提言する「日本のクリーン石炭火力が一気に広がる可能性」

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.03.15 06:00 最終更新日:2022.03.15 06:00

ロシア経済制裁による原油高に光明…エコノミストが提言する「日本のクリーン石炭火力が一気に広がる可能性」

ウクライナ侵攻に世界が揺れている(写真・共同通信)

 

「戦争や対立は、誰も幸せにしない」

 

 トヨタ自動車の豊田章男社長は3月9日、ロシアウクライナ侵攻に憤りを露わにした。トヨタはすでに、サンクトペテルブルクの工場での生産を停止し、ロシアへの車両出荷も停止すると発表している。

 

 グローバル企業のロシア離れは後を絶たない。エネルギー関連では、石油メジャーの英BPがロシア事業からの撤退を表明すると、シェル、米エクソンモービルも追随。エコノミストの飯田泰之氏は、“撤退ドミノ” はさらに広がるとみる。

 

 

「シェルが参画する液化天然ガスプロジェクト『サハリン2』には三菱商事、三井物産も加わっていますが、このまま継続する選択肢はなくなったと思います。極東ロシアにおける日本企業のエネルギー開発事業は、白紙に戻ったといっていいでしょう」

 

 ロシアは世界屈指の産油国。そしてヨーロッパ各国は、ロシアからの天然ガスに大きく依存している。ロシアからの供給が先細りになれば、エネルギー価格が長期にわたって高値で推移することになる。

 

 もちろん、日本も多大な影響を受けるわけだが、じつは日本には、エネルギーに関して世界をリードする技術があると、飯田氏は言う。それが「クリーン石炭火力発電」だ。

 

「日本は、世界でもっともCO2排出量が少ない石炭火力発電の技術を持っています。今回の経済制裁を商機ととらえ、この『クリーン石炭火力』を世界に売り込んでいかなければなりません」(飯田氏)

 

 クリーン石炭火力とはいかなる発電方式か。開発を進め、磯子火力発電所(神奈川)や竹原火力発電所(広島)などで、最先端の設備を稼働させているJ-POWER(電源開発株式会社)に取材した。

 

「石炭は中東やロシア、アフリカなど産地が限られる石油や天然ガスに比べ、世界中で偏りなく産出されるので、政情不安の影響を受けることが少ないのです。

 

 価格も安定していますし、おもなエネルギー資源の中で埋蔵量がもっとも豊富で、可能な採掘年数は石油、天然ガスの2.5倍以上といわれています」(広報部)

 

 石炭火力の最大のネックは、温室効果ガスのCO2を多量に発生させることだった。一般的に石炭が燃焼した際のCO2排出量は、天然ガスの約2倍とされている。

 

 ところがクリーン石炭火力は、従来型より少量の石炭で発電でき、CO2排出量を天然ガスの約1.7倍に低減させた(資源エネルギー庁試算)。

 

「『超々臨界圧』という高効率の方式を採用し、従来と同じ発電量を、より少ない燃料で達成できます。この日本の最高水準の石炭火力発電を、米国、中国、インドの3カ国に適用した場合、年間で約12億トンのCO2削減効果があると試算され、これは日本の総排出量に相当します」(同前)

 

 さらに、クリーン石炭火力は、SOX(硫黄酸化物)やNOX(窒素酸化物)などの大気汚染物質を90%以上除去することも可能にした。

 

「石炭燃焼による “黒い煙” はもはや過去の話です」(同前)

 

 今後のさらなるCO2低減を目指して、日々技術開発が進められている。

 

「バイオマス(生物由来の資源)を混ぜることで、石炭の使用量を減らし、CO2を低減できます。また、石炭を蒸し焼きにすることで生じる一酸化炭素や水素で発電する『石炭ガス化』にも取り組んでおり、これもさらに発電効率を高めます。

 

 また、発電時に発生するCO2を地中へ貯留したり、原料として再利用する方法などを組み合わせ、石炭火力の『ゼロエミッション化(CO2排出量ゼロ)』も進めています」(同前)

 

 聞けば聞くほど、期待させられるクリーン石炭火力。日本が世界に抜きんでた理由を飯田氏が解説する。

 

「ヨーロッパはロシアからの天然ガス供給があるため、石炭火力のCO2排出量を下げる技術に積極的ではありませんでした。石炭火力にもっとも頼っている中国や途上国は経済優先で、もともと環境問題に関心がない。

 

 したがって、クリーン石炭火力の技術開発を進めているのは、世界で日本だけと考えていいでしょう。日本は天然ガスが安く買えるわけではなく、原発も稼働できないため苦肉の策で石炭火力の改良を進めてきた。日本が独り勝ちできる状況です」

 

 ヨーロッパのなかで、とくにドイツは石炭利用に批判的で、2030年までに「脱石炭」を達成するという目標を掲げている。しかしこれには、ある “事情” があるという。

 

「ドイツは環境問題を優先しているというより、自国で主流の天然ガスによる発電方式を推進したいという政治的な理由があります」(飯田氏)

 

 そのドイツも、今回のエネルギー危機で背に腹は代えられない状況だ。

 

「ショルツ首相は石炭火力を見直す方針を発表しました。日本は技術力をアピールするチャンスです」(同前)

 

 世界の流れが「脱炭素」へ進んでいることに変わりはない。日本のクリーン石炭火力は、一時的な技術なのか。

 

「世界的に日本の石炭火力の技術が主流になれば、それはそれで十分に脱炭素といえます。今まで欧州勢は、石炭火力は『世界を壊す悪魔の事業』と言ってきたが、今回の経済制裁で日本の技術に光が当たれば、一気に広がる可能性が出てきた。

 

 天然ガスや再生可能エネルギーだけではなく、クリーン石炭火力もひとつの選択肢として生き残るチャンスが到来したのです。安定供給ができる『ベースロード電源』として、天然ガス、原子力、そして石炭火力による発電は不可欠です」(同前)

 

 日本が石炭火力で世界トップに立てるかは、「政治家の積極性にかかっている」と飯田氏。元外相の岸田首相は商機をとらえ、ディールを勝ち取れるか。

 

( 週刊FLASH 2022年3月29日・4月5日号 )

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