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必ずや失敗する「水道民営化」100兆円の水ビジネス参入

社会・政治 投稿日:2017.03.23 06:00FLASH編集部

必ずや失敗する「水道民営化」100兆円の水ビジネス参入

『写真:AFLO』

 

 日本の道経営は非常に厳しくなっている。右肩上がりの経済を前提とした過去の設備投資の結果、巨額の借入金が残っている。その額は、上水道で約11兆円、下水道で約32兆円にのぼる(2010年総務省調べ)。

 

 最近は水道管の破裂事故が頻発している。日本水道協会の調査では、全国の水道管のうち、法定耐用年数40年を過ぎた管は約3万8000km。ほぼ地球1周分にあたり、今後はさらに増えていくことになる。

 

 こうした状況を解決するため、今国会で「水道法」改正案が提出される見込みだ。切り札となるのが、水道民営化である。

 

 民間大手と東京大学などが参画する「産業競争力懇談会」は、2008年3月、「水処理と水資源の有効活用技術」と題する報告書を発表した。ここで「食料とエネルギーの海外依存度が高い日本は、国家戦略として水ビジネスを推進する必要がある」と報告されている。

 

 世界の水ビジネスは60兆円を超えるが、そのほとんどは施設の管理・運営で50兆円。ほかに、EPCと呼ばれる建設などの技術分野が10兆円と推定されていた。これが2025年には、管理・運営は100兆円、EPCが10兆円へ拡大すると見込まれる。

 

 日本企業は水道の管理・運営の海外実績はほとんどないため、この巨大市場を取り逃がしてしまう可能性が高い。そのため、運営ノウハウを早急に身につける必要がある。経済産業省は水道事業に官民一体となって取り組み、国内の水関連産業が世界シェアの6%を獲得することを目標にしている。


 今回の「水道法」改正に盛り込まれるのが、「コンセッション」による水道運営の導入である。簡単にいえば、施設は公が保有するが、運営権は民間がもつ形である。水道事業へのコンセッションは政府目標として2014~16年度に6自治体程度の具体化を目指していたが、現状はゼロだ。

 

■コンセッション方式の懸念点

 

 コンセッション方式を進めようとしている大阪市の例を見てみよう。大阪市水道局の収益は約650億円で、この15年間で24%減少している。経営の見直しのため、施設は大阪市が保有、運営は民間が行うという「上下分離型コンセッション」というスタイルを編み出した。

 

 このプランを推進する竹中平蔵・慶応義塾大学教授は、「運営権を民間に売れば公的部門にもお金が入ってくる。そして公的部門に入った資金を別のインフラ投資に向けることができる」(関係者を集めた講演)と評した。大阪市も30年間で910億円のコストを削減し、将来的な水道料金値上げを回避する計画だ。

 

 民間企業の創意工夫によって事業収益が高まるというのは一般的な考え方だ。たとえば空港を民営化すれば、商業施設やホテルなど新たな付帯事業を創出し、大きな利益を得られるだろう。だが、どう考えても水道に付帯事業を創出するのは難しい。

 

 しかも、役員報酬の支払い、法人税の支払いなど、民間ならではのコストも発生してしまう。大阪市の場合、法人税の支払いは30年間で570億円と見積もられている。大阪市は国に対して税負担軽減措置を求めているが、税負担の公平さを大きく欠くことになる。

 

■なぜ水道事業の再公営化が行われたのか

 

 日本では、「水道事業は公から民の流れにある」という考え方が一般的だが、1990年代、2000年代を通じてコンセッションが成功した例はない。また、パリ、ベルリン、ジャカルタなど世界の主要都市において、いったん民営化した上下水道事業の「再公営化」が進んでいる。

 

 たとえばアメリカのアトランタ市では、1998年12月、市営で行っていた水道事業を、民間企業UWS社(仏スエズ社の子会社)に委託するコンセッション契約を締結した。しかし、わずか4年後の2003年1月に契約は解除され、再び市の直営に戻った。

 

 その理由は、配水管損傷で水が出ない、泥水が地上に噴出した、そうしたトラブルへの対応の遅れなどだ。UWS社は「アトランタ市が施設の現状を十分に情報開示しなかったため、想定外の作業負担を強いられた」などと主張したが、公益性の高い水道の運営が難しいことが明らかになった。

 

 大阪市では、「時間がかかるので水道施設の資産査定は行わない。それこそが上下分離を選択した理由」としている。地下に埋まっている水道管がどれだけ老朽化しているかわからない状態で民間に運営を任せれば、アトランタと同様のトラブルが発生するだろう。

 

 アトランタでは再公営化したわけだが、そのための株式買い戻し額は巨額なものとなった。日本では「一度民間に任せてダメならまた公営化」などと簡単に言う人もいるが、民営化は慎重になるべきだろう。
(水ジャーナリスト・橋本淳司)

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