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東大専任講師・小泉悠氏が絶賛… ゼレンスキーがロシアを翻弄する “毛沢東” 式抗戦術
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.04.14 06:00 最終更新日:2022.04.14 06:00
いまだ混迷を極める、ロシアによるウクライナ侵攻。首都キーウの近郊で多数の民間人の死者が見つかったことで、岸田文雄首相は4月8日に追加の経済制裁を発表した。
開戦初期には「数日以内に首都が陥落」という見通しだったにもかかわらず、ロシアが苦戦を強いられているのはなぜなのか。
ロシア軍の “電子戦” の拙さを指摘するのは、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏だ。
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「ロシアは今回、情報戦で完敗しています。普通、戦争時にはサイバーアタックでネットや放送網を止めるものですが、なぜかロシアはまったくそれができてない。
それどころか、ロシア軍は通信を傍受される始末で、通信機が使えないから、兵士は隠し持ったスマホで連絡を取っているんです。そうなると、当然指揮系統は混乱しますよね。ロシア軍はガタガタです」
他方のウクライナは、国民による “ゲリラ情報戦” で、ロシア軍を撹乱している。東京大学先端科学技術研究センター専任講師でロシアの安全保障政策を専門とする小泉悠氏は、巧みな戦術に舌を巻く。
「国民がSNSを通じて軍に協力しています。『テレグラム』というメッセージアプリに、ウクライナ政府が『通報窓口』を作っていて、そこに国民からロシア軍の目撃情報が入ってくる。
一方、自国軍の動画は一切SNSに上げないため、統率の取れていないロシア軍は、ウクライナ軍がどこにいるかわからない。地の利に加えて、情報の利ともいうべきものを獲得しています。
さらに驚くべきは『占領者』という地図サイト。これはウクライナの国防安全保障会議が作ったものですが、ロシアの侵略勢力がどこの部隊から何人来ているかということが表示されています。
さらにこのサイトでは、ロシア兵の名前を検索することで安否などがわかり、捕虜になっている場合は動画などが撮られていることも。ロシア軍兵士のご家族は、非常に精神的に揺さぶられるでしょう。さらに国際社会に対して、ロシアの蛮行を告発するという目的もあります」
実際に、サイトにアップされている捕虜が登場する動画を再生すると、「私たちはロシアに騙された。平和をもたらすためだと聞いて徴兵されたのに、一般の市民、学校、産婦人科といった日常的なものが攻撃されており、軍用施設などはなかった。ロシアは武器を手放すべきだ」と、力なく語るロシア兵の姿が見られた。
この成功を支えているのは、やはりゼレンスキー大統領の戦略の妙にあると、小泉氏は分析する。
「ゼレンスキーは元お笑い芸人ですから、政治経験はなくても『侵略を受けている国のリーダーはこうあってほしい』という、人が見たい役柄を演じるのが天才的にうまいんです。だからこそ国民が連帯して、各々のスマホを通じて自主的に軍に協力している。
これは、毛沢東が日中戦争時に書いた『抗日遊撃戦争論』を彷彿とさせます。『強い敵と戦うときは人民の力が非常に大事だ』と、抗戦に際して人民の心をがっちり掴んで協力を得ることの重要性を説いた本ですが、ゼレンスキー政権は、毛沢東的な戦いを非常にうまくやれていると思います。
そして、国民とともにあるというこの姿勢が、NATOやアメリカの世論を味方につけているのです」
では、対するプーチンはなぜ情報戦に敗れたのか。元在ロシア防衛駐在官の佐々木孝博氏は、戦術のアップデートがなされていないことを要因に挙げる。
「2014年のクリミア併合時、ロシアはフェイク動画をプロパガンダに用いています。ロシアの砲撃訓練のビデオを、ウクライナ軍が東部ドンバスの民間人に対して攻撃しているものだと偽って表示したり、ウクライナ軍の軍用車両にナチスの鉤十字を合成したりしました。当時は、こうした情報戦が成功してフェイクニュースが拡散され、クリミア併合が圧倒的賛成で認められる世論を作り上げました」
今回、ロシアは8年前と同じ手法で「ウクライナ政府はネオナチに支配されている」「ウクライナ東部でロシア系住民が虐殺されている」といった偽情報を拡散して情報戦をおこなおうとしたが、ことごとく失敗に終わっていることは周知のとおりだ。
「失敗した理由は、前回の成功体験から、同じことを繰り返しているからです。今回はウクライナ側が官民一体となって正しい情報を共有しているために、嘘はすぐにバレてしまう。ウクライナはクリミア併合時の情報戦での “敗戦” を苦い教訓としたことで、フェイクに打ち勝ったのです」(同前)
前出の小泉氏は、それでもフェイクを用いた戦術には脅威があると警鐘を鳴らす。
「フェイクは社会に巨大な分断を作ります。日本にも1割くらい偽情報を信じてしまう人たちがいて、実際、いまでもロシア側の言い分を支持している。もし台湾有事が起きて、中国が虚偽情報キャンペーンを仕掛けたら、日本は一丸となってフェイクを打ち消せるでしょうか」
いかにして社会が連帯するか、我々は常に考えなければならない。
写真・AP/アフロ