武者リサーチ代表の武者陵司氏はこう話す。
「長期円安の時代が到来しました。円安の進行は不可逆的なもので、『円安短命論』も『悪い円安論』も、早晩消え去っていくはずです。
円安は企業業績の向上をもたらし、日本の産業競争力を強めていく。円が弱くなれば、輸出が増え輸入が減る。海外移転工場の国内回帰、輸入品の国内代替も起こる。訪日観光客も増える。日本国内への投資と生産が増え、所得が増える。賃金も上昇するはずです。
円安は、日本産業復活の“神風”となるでしょう」
過去の超円高時代には、その逆のことが起きた。日本企業は海外に工場を移し、国内は安い中国製品に浸食された。
「ひと言でいうと、円高は日本の競争力を徹底的に奪った。経済活動は価格競争力がすべてですが、円高によって価格競争力を失ったために、日本製品は世界で戦えず、貿易黒字はあっという間に消失しました。
かつて1ドル=360円だったのが、一時は80円と4倍以上の円高になったわけですが、こんなに通貨が強くなった国は日本以外にありません」(武者氏)
それは、アメリカが日本の競争力を奪うための「懲罰的円高」だったという。
「とくにリーマンショック後の2008年~2012年の超円高は、すでに困難な状況にあった半導体や液晶パネル、テレビ、携帯電話、PCなどのハイテク産業を壊滅させたのです」
それが今、「恩恵的円安」が訪れた。背景には、アメリカの政策転換があるという。
「円安の底流には、米国経済の突出した強さ、そして米中の対立がある。アメリカは中国を排除したサプライチェーン構築のために、日本の産業競争力を復活させることが必須だと考えているのです。
つまり、その推進力となる円安が、アメリカの国益と直結したのです」(同前)