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中国で広まる「習近平」退陣説…ツイッターから始まった「権力闘争」の裏側
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.06.01 06:00 最終更新日:2022.06.01 06:00
5月5日、ツイッターの「老灯」というアカウントから「習下李上」というツイートが発信され、波紋を呼んでいる。中国の国家主席である習近平がまもなく下野し、李克強首相がトップに就くという情報が、まことしやかにささやかれているのだ。
これまでも、李克強は習近平の最大の対抗馬だと見なされてきた。たとえば、李克強は5月中旬の視察をノーマスクで臨んでいる。これは、習近平の打ち出す「ゼロコロナ政策」への当て付けではないかと目された。
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こうした話から、水面下で習近平との政治的対立が激しくなっていると見る識者は多い。
はたして、老灯の投稿内容に信憑性はあるのかは。本誌が取材した多くの識者は「デマでしょう」と切り捨てるが、ことはそう単純ではなさそうだ。ジャーナリストの福島香織氏は、このツイートが中国にもたらす影響は、想像以上に大きいと話す。
「老灯の投稿は、内容の真偽はさておき、非常に大きな影響があると感じています。面白いのは、日本やアメリカなど、世界中にいる華人系ユーチューバーたちが、一斉にこの話題を取り上げていることです。ある意味、華人社会での合意があるのではないかと考えています。
中国から海外に逃げた人たちは、天安門事件なり文革なりで、非常に苦労を重ねていますから、早く共産党支配が終わればいいのに、と心の底で思っている人が多いんです。
老灯が『李克強が次のナンバー1でいいじゃないか』と発信したとき、なんとなく『李克強でまとまろう』という暗黙の了解ができあがった気がします。この了解ができあがるくらいには、世界の中国人の間で『習近平はもう終わりかも』というムードがあったと言えるでしょう」
中国の外にある華人社会で「打倒・習近平」の思いが強くなっていると語る福島氏。では、実際のところ、習近平退陣はありえるのか。中国問題に詳しいジャーナリストの近藤大介氏は、「可能性はある」と言う。
「まず前提として、老灯の投稿に信憑性はありません。ふだん中国を見ている立場からすると、“これはない” という表記が10カ所以上あるんです。
たとえば、『5月2日に常務委員会が開かれた』と書いてあるんですが、実際は5月5日に開かれている。さらに言うと、3日前に常務委員会が開かれているのに、3日後にまた開くわけがないとか、老灯の投稿には滑稽な表現がいくつもあるんです。
とはいえ、退任自体はあり得ると思っています。私の肌感覚では『8割留任、2割退陣』みたいな感じでしょうか。胡錦涛グループと江沢民グループの両方が、習近平3選阻止で組んでいる状態ですからね。
実際、外交はプーチンべったりですし、『ゼロコロナ政策』の失敗もあって国内経済はガタガタです。このまま3選を許すと、毛沢東の文化大革命時代のようになってしまうと心配する声も多い。実際、3選すれば、そのような時代に逆戻りすると思うんです。
それを阻止せよ、という大義名分のもと、3選に反対する声は非常に強くなっています。もちろん、その代表格が李克強なわけですが」
近藤氏が発する「大義名分」という言葉の裏には、血なまぐさい中国政治事情があるという。
「中国は事実上、選挙がないので、権力闘争で物事を決めるしかない。だから、中国の政治家って24時間365日、権力闘争をやっているんです。敵対する勢力を追い落とし、自派の人間を権力につかせることが、政治家にとって最大の目的なんです。
だいたい中国では10年に1回、大きな権力闘争がありまして、今年もその年に当たります。今年後半に共産党大会がありますが、それに向かって、習近平が3選するのか、それを阻止するのかという権力闘争が激しくなっていくでしょう」
国家主席の任期制限が2018年に撤廃されたことで、法律上、習近平は終生トップでいることが可能だ。はたして、その野望は実現するだろうか――。
( SmartFLASH )