社会・政治
「新型コロナ」だけじゃない! 北朝鮮で感染拡大する腸チフス、コレラ「医療水準の遅れ」を指摘した幹部に処罰も
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2022.07.11 15:24 最終更新日:2022.08.16 18:41
2022年5月になって、新型コロナウイルスの初感染を認めた北朝鮮で、新たに「急性腸内性伝染病」の感染が広がっているという。『デイリーNKジャパン編集長』の高英起氏が解説する。
「北朝鮮の国営メディアによれば、感染が広がっているのは北朝鮮南西部の黄海南道(ファンヘナムド)です。
患者には発熱、食欲不振、徐脈、下痢などの症状がみられるとのことです。防疫当局は当初、新型コロナウイルスと診断していましたが、後に腸チフスやコレラと診断を変更しました。
【関連記事:北朝鮮、コロナ大流行で広がる民間療法「よもぎ」「ショウガ湯」「塩水」…日本はワクチン供与も検討】
北朝鮮の国営メディアは、金正恩総書記が、自宅に備置していた医薬品を患者に送ったことを、例によって “美談” として大きく宣伝しています」
感染症で苦しんでいるのは、黄海南道だけではない。『デイリーNK』の内部情報筋によれば、首都・平壌から北にわずか50kmしか離れていない平安南道(ピョンアンナムド)でも、腸チフスやコレラの患者が多く発生しているという。
「こうした感染症が蔓延する理由として、北朝鮮の劣悪な衛生環境があげられます。これらの感染症はいずれも汚染された水を通じて感染するのですが、北朝鮮の地方では下水道設備が整っておらず、共同水道や井戸を使用し、肥料として人糞を使っていることもあって、感染症が広がりやすいのです。
“苦難の行軍” と言われ、餓死者が150万人とも350万人ともいわれた大飢饉が、1990年代にありました。これは河川の氾濫による大水害が原因でしたが、このときも餓死だけではなく、腸内感染症による死者がかなり多かったのです。食料不足で栄養状態が悪いところに、感染症が蔓延したのです」
治療に有効とされるのが抗生剤だが、価格が高騰し、患者に行き渡っていないのが現状だ。
「品薄で、薬局や市場では手に入らないんです。地域担当の医師は、衛生管理の徹底を呼びかけるにとどまっているようです」
一方で、新型コロナウイルスも相変わらず猛威をふるっている。北朝鮮当局の公式発表では、有熱者(発熱患者)の数は、ピークだった5月15日には39万2920人に達していた。それが、7月5日以降は「2000人を切った」としているが……。
「公式発表は、あてになりません。処罰を恐れた関係者が、意図的に数字を減らして報告しているのではないかとの声が相次いでいるのです。
朝鮮労働党咸鏡北道(ハムギョンブクト)委員会は、5月12日から6月下旬に至るまでの非常防疫事業の総括をおこないましたが、このとき病院の院長、技術副院長など多くの幹部が処罰されました。
『外国から予防注射を取り寄せなければならない』『この病気はわが国では手に負えない』『わが国は医療水準が遅れており、解熱剤一つですら不足している』『免疫力の弱い人々に、薬草を煎じた薬を飲ませろというのは、現代医学を学んだ医者の言うことではない』――こういった発言が、処罰の理由です。いずれも正論ですが、北朝鮮ではそれが処罰の対象になるのです」
新型コロナウイルスに加え、腸内性伝染病という新たな災難に見舞われている北朝鮮。だが、この程度では金正恩体制はびくともしないという。
「せいぜい数万人程度の死者なら、北朝鮮では想定内なんです」
ミサイル発射などしている余裕はないはずだが……。
( SmartFLASH )