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英国「マンチェスター」テロの背景に4年前の兵士殺害事件?
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2017.05.27 20:00 最終更新日:2017.05.27 20:00
6月8日の総選挙を控えた英国マンチェスターで起きた自爆テロは、悲惨なものだった。8歳の少女を含む、主にティーンエイジャー22人の命が失われた。しかも、60人近い負傷者の中には、生死の境目をさまよう重傷者が20人を超えている。
自爆テロの実行犯とされたのはリビア系英国人で、22歳のアベディ容疑者。これまで何度もリビアを訪ね、事件発生の数日前に英国に戻ってきたばかりだった。
マンチェスターは英国の中でもリビア系移民が最も多く住んでいる都市に他ならない。宗教的にも経済的にも互いに助け合う連帯感の強い地域として知られている。容疑者は年長者を敬うことで知られていたが、いつしかイスラム過激派思想に染まっていったようだ。
地元のモスクでは熱心に礼拝に通っていたが、「テロをいさめるような説教には強く反発していた」という。また、マリファナを吸引するようにもなり、街頭で大声を発するような奇妙な行動を見せるようになる。地元の大学も中退し、イスラム教徒特有の民族衣装を身にまとうようになり、髭も伸ばすようになった。
その後、父親や弟のいるリビア通いが始まる。当然、警察の監視対象になるかと思われたが、なぜかそうはならず、今回の犯行になった。
ロンドン・オリンピック以降、テロ対策の一環で、要注意人物の監視を強化してきた英国だが、対象人物が多過ぎ、十分な対応ができなかったようだ。いくら町中に監視カメラを設置しても、心の中は見通せない。
背後にIS(イスラム国)が関わっていたとの見方もあるが、現時点では不明だ。とはいえ、今回自爆に使われた爆弾はこれまでISのテロリストが頻繁に用いていたものと同種であり、多数のクギが精巧にはめ込まれ、殺傷力の強いものであった。犠牲者の多くは、全身にクギが刺さり、血まみれになっていたという。高度な爆弾であり、背後の組織をうかがわせる。
2015年以降、パリをはじめヨーロッパでは13件のテロが発生。恐らく、これからも続く可能性が高い。テロリストの動向を事前に把握し、未然に防ぐのは容易ではないだろう。
しかし、努力を放棄するわけにはいかない。その点、残念に思われるのは、治安当局が今回の事件発生のちょうど4年前にロンドンで起きたテロ事件との関連性を見逃していたことだ。
当時、マンチェスター出身の英国軍兵士がイスラムの熱狂的信者によって殺害された。あのテロを蘇らせようとの意図があったかもしれないからだ。
実は、今回の自爆テロが起きる4時間前、ISの支持者がツイッター上で、マンチェスターを名指しして「われわれの脅威を忘れたのか? 正義の恐怖を思い出させてやる」との書き込みをしていた。その予告通りになったわけで、ネット監視も欠かせないだろう。
それにしても、なぜアリアナ・グランデのコンサート会場が狙われたのか。どうやらアメリカの人気女性歌手に群がる英国のティーンエイジャーを「宗教心の欠如した不浄な存在」として天罰を加える必要があったと信じ込まされたようだ。少女やその母親を血祭にあげたテロには、明らかな宗教的メッセージが感じられるのだ。
(国際政治経済学者・浜田和幸)