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賃上げ 岸田首相は「職務給」にふれるも、エコノミストは「若年層の失業率が高くなり、未来はバラ色ではない」

社会・政治 投稿日:2022.10.04 18:40FLASH編集部

賃上げ 岸田首相は「職務給」にふれるも、エコノミストは「若年層の失業率が高くなり、未来はバラ色ではない」

 

 岸田文雄首相は、10月3日に招集された臨時国会で所信表明演説をおこない、日本経済の再生を最優先課題として、「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」の3つに重点的に取り組むことを宣言した。

 

 とくに賃金については、日本は世界と比較して長年低迷が続いているといわれており、国民の関心は高いだろう。その賃上げ達成の方法として、首相は「成長分野に移動するための学び直し支援」や「年功制の職能給から日本に合った職務給への移行」などについてふれた。

 

 

 ついに賃上げは実現できるのか。エコノミストで明治大学の飯田泰之教授が解説する。

 

「まず『物価高と円安への対応』を最初にもってきたことは、目下の経済状況を考えると当然のことだと思います。

 

 次に、『構造的な賃上げ』について。賃上げというのは、そもそも政府が決めるものではありません。最終的に、賃上げは人手不足が顕在化しないと達せられません。つまり、人材について供給能力を超える需要がある状態でなければ賃上げは起こらないのです。

 

 現在の日本国内には、15兆円から25兆円ほどの需要不足があるといわれています。この需要不足の解消なしに、賃金だけを引き上げるのは困難でしょう。その一方で、低賃金カルテルと呼ばれる現象があり、これは『今までこの業界は低賃金だったから低賃金を続ける』といったいわば慣習のことで、これを解消するために公的雇用、つまり看護、介護、保育などの現場で働く人々の処遇改善や業務効率化、負担軽減に言及したことは一定の評価ができます」

 

 日本で長年続いてきた年功制の「職能給」から「職務給」への移行を促すという方針には、問題点があるという。

 

「今回の演説で大きく注目されたのが、職能給から職務給への移行です。これはじつは、『同一労働同一賃金』の実現と表裏一体をなしています。

 

 ところが、職務給への誤解が日本には根強くあります。能力主義や成果主義と、職務給はまったく異なる概念です。これまで日本で取られていた職能給は、労働者そのものに賃金を定める制度ですが、職務給はポストに対して給料を定める制度です。

 

 評論家の海老原嗣生氏がよく用いる説明を借りると、たとえば同じ英会話学校で採用された教員が2人いるとします。一方は英語、ドイツ語、フランス語を教えることができ、経験年数は10年。もう一方は、英語だけを教えられて経験も浅い。日本人の感覚では、前者のほうが給料は高くなってしかるべきとなりますが、職務給の考え方では両者の業務が同じだから同じ賃金が支払われることになります。

 

 また、社歴も学歴も資格もすべて同じものを持っていたとしても、旗艦店の主任職と、それ以外の支店の主任職では賃金が異なることになる。つまり、『同一労働同一賃金』というのは、異なるポストに対しては異なる賃金が適用されるということです。『同一労働同一賃金』と聞くと、平等で理想的な処遇のように感じるかもしれませんが、経験や能力が同じであってもポストが異なれば賃金も異なるという状況を、果たしてこの社会は公平だと捉えるでしょうか。

 

 実際、職務給の方式は、それが一般的である欧米を見ればわかるように、若年層の失業率が高くなる傾向があります。安定的な雇用が見込めるポストに就くためには、同業界での経験年数が必要ということになると、経験の浅い若者がそれを得ることは簡単ではありません。また、給料を増やすためには、より高級なポストに移動しなければなりません。これらを考慮すると、職務給と『同一労働同一賃金』の未来は必ずしもバラ色ではない。

 

 私見としては、職能給型の賃金決定は、若者の失業率を低く押しとどめるのに大きな効果を発揮するため、その利点を生かしながら、日本に合った職務給への移行を図ることを推奨します。つまり、40歳前後での職能給から職務給へ移行するといった両システムを混在させる手法が必要だと考えます。

 

 とにかく、賃上げは需要不足を解消するためのマクロ経済政策、つまり財政出動なしには実現しません。職務給への移行というのは、企業が人材確保のためにやるものであり、人材不足の圧力がない状態ではシステム的にうまくいかず、労働者に不利な形で決着すると思われます。職務給の小手先の導入では構造改革はできません」

 

 10月3日付の「読売新聞」では、岸田首相は「新しい資本主義」の施策として、「転職・副業支援」を近く発表するとされ、これについて飯田氏は「他業種にふれ、経験できることは新しい発見と創意工夫の源泉となって望ましい」と言う。

 

 支持率急落のなか、岸田首相は個々の経済政策で得点を稼ぎ、形勢逆転に繋げられるか。

( SmartFLASH )

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