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「安保3文書」で陸上自衛隊に“縮小方針”! 元陸将は「前向きに捉える」が「中国軍の尖閣上陸に対応できない」懸念

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2023.01.10 18:45 最終更新日:2023.01.10 18:45

「安保3文書」で陸上自衛隊に“縮小方針”! 元陸将は「前向きに捉える」が「中国軍の尖閣上陸に対応できない」懸念

2014年、陸上自衛隊東北方面総監に着任したときの松村五郎元陸将(写真・共同通信)

 

 2022年12月16日、政府は安保3文書、すなわち「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の改定を閣議決定した。

 

 メディアでは、大幅に増加する防衛費を誰が負担するかや、「国家防衛戦略」に“反撃能力の保有”が明記されたことが大きく報じられた。「防衛力整備計画」によると、今後5年間の防衛費は、過去5年間の1.5倍にあたる計43兆円にのぼる。

 

 

 そんななか陸上自衛隊では、2000人の隊員を海上自衛隊や航空自衛隊に振り分けるほか、戦闘・情報収集ヘリコプターを廃止して無人機に置き換えるなど“縮小”の方針が打ちだされ、隊員の間では“寝耳に水だ”と、衝撃が走っているという。

 

 元陸将で、陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎氏に、3文書改定が陸自に与えるインパクトについて聞いた。

 

「陸自の定数削減が唐突に報じられたので、まだ詳しい事情の説明を受けていない隊員にとっては、たしかに“衝撃”だったかもしれません。しかし、海空自に移管される2000人は、サイバーや宇宙など、陸海空に共通の分野に充てられます。陸自の中枢は、問題だとは考えていないようです」

 

 陸自は所有しているヘリのうち、戦闘ヘリ「AH-64D」を12機、対戦車ヘリ「AH-1S」を47機、観測ヘリ「OH-1」を33機を、今回の改正で全廃するという。

 

「予算と人的・物的資源が限られるなか、無人機への置き換えは不可避ですが、今の技術では、有人機に代わる性能の無人機はありません。その移行期に防衛上の穴が開かないよう、うまく移行を考えていくべきだと思います」

 

 松村氏は、今回の3文書の改正を陸自の“縮小”とはとらえず、前向きに受け止めているというが、一方でこのような懸念もあるという。

 

「陸上自衛隊は、テロへの対応から災害派遣、PKOまで、航空や海上よりも幅広い事態に柔軟に対応する必要があります。しかし、今回の3文書の『防衛整備計画』を見ると、トマホークを購入するなど、『反撃能力』に偏りすぎているんじゃないかなという気がしています。

 

 陸自に期待される役割は増える一方です。隊員がますます忙しくなっているのはたしかで、給与面などの処遇を改善して、人員確保に努めることが課題です。もっとバランスよく、さまざまな能力に予算を配分するべきだと、陸上自衛隊のOBとしては感じています」

 

 なぜ偏りが生じているのか。「肝心な議論が抜け落ち、いきなりモノへの配分の話になっているからだ」と、松村氏は語る。

 

「安保3文書の基本となる国家安全保障戦略は、2013年に安倍晋三政権で初めて策定されましたが、それから10年の間に、日本を取り巻く情勢には大きな変化がありました。しかし今回の改訂では、喫緊の課題である情報操作やサイバー戦などの『ハイブリッド脅威』への総合的対処と、2015年に可能になった集団的自衛権の行使について踏み込んだ記述がないのです」

 

 ハイブリッド脅威が顕在化したのは、2014年のロシアによるクリミア統合だった。

 

「ロシアは、今回のウクライナ侵攻でもハイブリッド戦を繰り広げ、中国も台湾に対し、マスメディアの買収や、中国に投資している経済界に親中派を育成するといった世論工作をおこなっています。尖閣諸島も、こうしたハイブリッド脅威と無縁ではありません。たとえば、本土へのサイバー攻撃と同時に、漁民を装った偽装勢力が尖閣諸島に上陸したり、漁民保護の名目で尖閣諸島に中国軍を上陸させるという事態も考えられるのです」

 

 しかし、今回改定された3文書には、サイバー攻撃などに対して『総合的に対処する』と書かれているのみです。実際にはさまざまな同時攻撃に対し、政府がリアルタイムで分析、指示していく司令塔としての機能が求められますが、そこまでは踏み込まれていないと感じています」

 

 そして、まさに戦後の安全保障政策の大きな転換点だった集団的自衛権に関しても、朝鮮半島や台湾海峡における韓国、台湾、アメリカとの関係のなかで、日本がどういう能力を持つかということが不透明だという。

 

「2015年以降、国民の生命や財産が根底から脅かされる『存立危機事態』に限って、集団的自衛権を行使できるようになりました。それまではできなかったものができるように法律が変わった以上、政策でどこまでやるのかを説明しなければならないわけです。

 

 最大限なら、朝鮮半島や台湾海峡で何かが起きたときに、韓国防衛や台湾防衛のために自衛隊が出動することが考えられます。一方、最小限であれば、日本の領空領海が攻撃をされない限り、自衛隊は武力を行使しないことになるでしょう。それによって、日本の防衛力はどのぐらいの大きさが必要かということも変わってくるわけです」

 

 ところが、今の議論は順序が逆だというのだ。

 

「防衛力の中身を議論するのでなく、対GDP比で2%という議論ばかりが先行しています。最大限やるとしたら、GDP比で3~4%は必要になるかもしれないし、逆に最小限であれば、2%以内で、必要なところに重点を置く形で足りるかもしれません。そこの議論が飛ばされて、国民の合意形成がないまま、いきなり能力と財源の話になってしまっているのです」

 

 大物制服組OBの覚悟の提言である。

( SmartFLASH )

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