日本の農業とともに、将来の宰相候補が正念場を迎えている。「将来に対する不安、そして今回の(TPP)合意内容に対する怒り」(JA=全国農業協同組合中央会・奥野長衛会長)という発言を皮切りに、11団体トップが、各5分という短い時間のなか、思いの丈をぶちまける。それを取り仕切るのが、自民党農林部会長に就任した小泉進次郎氏(34)だ。
11月6日に開かれた会合では、司会を務める小泉氏が「部屋の中、たいへん暑くなっておりますので、団体の皆さま、どうぞ上着を脱いでください。先生方も……」と気を遣う場面があった。連日、自民党本部9階の会議室で開かれる農林関係の合同部会は、ごった返す人と熱気で季節外れの暑さに包まれる。無理もない。TPP合意は、各農業団体にとって死活問題だからだ。日本農業新聞では、「安倍内閣支持18%」(農政モニター調査)という衝撃的な数字が報じられた。
だが、小泉氏自身「自分でも予想外の立場。真価が問われる」と語ったように、農林分野はまったくの門外漢。この人事には、「安倍官邸によるイジメ」という見方が広がっている。
「10月の改造人事の目玉として入閣説が流れたが、進次郎氏は、“僕にはまだ雑巾がけの期間がある”と先手を打った。この“入閣拒否”発言で、安倍首相の面子は潰されたようなもの。その意趣返しが農林部会長への起用というわけです」(ベテラン秘書)
知名度は抜群だが、小泉氏の政治的力量は未知数だ。党幹部から「ポピュリスト(大衆迎合主義者)」と批判されたこともある。
「進次郎氏が農業団体や族議員による要望のとりまとめに失敗すれば、“やはりたんなるポピュリスト”ということになる。成功すれば、“異例の人事だが、安倍首相の目に狂いはなかった”ということになり、官邸にとって、どっちに転んでもよい」(前出のベテラン秘書)
農林部会長を引き受けることは、まさに「火中の栗」を拾うようなものだ。だからこそ「度胸だけはあることを示した」(自民党関係者)という声も上がる。とはいえ、ただ補助金を積み上げ、農業団体や族議員を満足させればいいわけではない。11月4日の農林関係の会合後、小泉氏は「今回、仕上げていく対策は、けっしてバラマキと言われないものにしなければいけない」と語った。
安倍政権への批判をも辞さない姿勢を保つためには、結果を出す必要がある。6日からは、農家の声を直接聞くため全国行脚。さらに農林部会で対策を取りまとめるのは17日まで、という強行スケジュールだ。政治ジャーナリストの角谷浩一氏が次のように話す。
「本気で農政改革に踏み出せば、ベテラン議員の“かわいがり(イジメ)”も激しくなる。TPP推進派と反対派の代理戦争に巻き込まれるわけですから。小泉氏なりの改革ができるか、族議員や農業団体に屈するか。小泉氏にとって本当の正念場ですよ」
(週刊FLASH 2015年11月24日号)