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川口市で施行された「プライド条例」に市民からのツッコミ殺到も専門家は「よく読むとまっとうなことが」

社会・政治 投稿日:2023.06.13 18:28FLASH編集部

川口市で施行された「プライド条例」に市民からのツッコミ殺到も専門家は「よく読むとまっとうなことが」

川口駅前の発展は著しい

 

 そこに住むと、大きな声で「大好きだ」と叫んでみようと言われる。その理由は、条例に定められているから――。

 

 その街とは、映画『キューポラのある街』で知られる埼玉県川口市。条例とは、2023年4月1日に施行された「大きな声で川口が大好きだと叫んでみませんか川口プライド条例」だ。議員提案で、2022年12月に成立したという。

 

「川口プライド」とは聞き慣れない言葉だが、条例の第2条(1)に、こうある。

 

 

《川口プライド 川口に対する愛着、誇り、共感を持ち、自ら進んで、大きな声で川口が大好きだと叫びたくなるほど、川口をもっと良くしていこうとする心意気をいいます。》

 

 わかったような、わからぬような……。条例の原案を作ったのは自民党市議団で、市のサイトでは、成立の経緯をこう記している。

 

《令和4年度に実施した総合計画のための市民意識調査において、「川口に住み続けたい」との回答が約85%と過去最高の数値であった一方、「川口に誇れる魅力がある」との回答は約35%と低い水準であり、市内外に誇れる魅力の再発見、向上、発信等が課題》

 

 条例の制定にあたっては、「大好きだと叫ぶこと」を「強く求めるものではない」と留保をつけたが、条例が施行されたあと、「毎日新聞」や「東京新聞」が「『内心の自由』に反する」という批判的な論調で報じたほか、SNSでもツッコミが殺到している。

 

《なんだ?この馬鹿げた条例は。》※原文は「常例」

 

《冗談かと思ったら本当だったんですね。》

 

《私も地元が好きだけど、人前で「●●大好き」と叫ぼうとは思わない。》

 

 2023年2月に川口市に転居したという、法政大学大学院政策創造研究科の増淵敏之教授は、地方再生や町おこしのアドバイザーを多数、務める、地方創生の専門家だ。同条例のネーミングに苦笑しつつも、「条文をよく読むと、まっとうなことが書いてあると思います」と語る。

 

「川口は、古くからの工場跡地の再開発が急ピッチで進んでいます。荒川沿いにはタワーマンションが立ち並んでいますが、駅前は新旧ないまぜになっており、東京に隣接するアクセスのよさもあって、暮らしやすいですよ。一方、川口市は外国人居住者数が日本一多い市区町村でもあり、私は条例が制定された背景は、そこにあるのではないかと考えています」

 

 川口市の人口は2年連続で減少を続けているが、人口60万4715人のうち、外国人は3万9553人と、全体の約6.5%を占めている(2023年5月時点)。川口市では過去に、中国系住民がゴミ分別出しのルールを守らず、問題化していると報じられたことがあった。

 

 そこで、中国系住民側の一部が市街の掃除を呼びかけ、日本人も参加するといった動きがあるのだが、現在も、外国人人口の増加を快く思わない保守層市民が一定数、いるのではないかと増淵氏は推測する。

 

「条例の第1条には、『多様な価値観を持つみんながひとつになれる川口プライドを育むことを目的にします』とあります。条例の趣旨として、日本人・外国人を問わず、川口市民なのは、みんな同じだとのアピールが必要だったのだろうと思います。

 

 川口は、鋳物産業に従事する多くの労働者が住む街から、人口が流動的な、東京のベッドタウンに生まれ変わりました。『住みやすい街』といったランキングでは上位にランクインするものの、かつてあった“ものづくりのまち”というプライドが失われ、それに代わるものを持ちにくくなっているんです」

 

 増淵教授の専門は、小説マンガアニメ音楽、映画などのコンテンツ作品を活用した地域の活性化だ。

 

「川口市には『SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ』という、映像を中心とした施設群があります。『映像公開ライブラリー』(NHKと共同運営)や、インキュベーション(起業家育成、ビジネス支援)機能もあります。

 

 しかし、地元の人以外にはまだまだ認知度が低く、残念に思っています。もっとうまくPRすれば、新たな“ものづくりのまち”になる可能性を引き出してくれる施設になると思うのですが……」

 

 埼玉には、『クレヨンしんちゃん』の舞台・春日部市や、『となりのトトロ』の狭山丘陵を始め、作品の“聖地”となってきた場所がいくつもある。条例でプライドを持つよう呼びかけるのもいいが、『キューポラのある街』に匹敵する新たなコンテンツが生まれれば、住民の愛着や誇りは、自然と生まれるのではないだろうか。

 

取材&文/鈴木隆祐

( SmartFLASH )

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