「プリゴジンがクレムリンに向けて進攻をおこなう――」
6月24日の早朝に発生した、プリゴジン率いる民間軍事会社ワグネルの反乱は、わずか1日で収束した。
「プリゴジンは、ロシア軍による“ワグネル解体”の動きに抗議するため、ウクライナ国境に位置する南部軍管司令部を制圧し、モスクワまで200kmの地点まで迫りました。一触即発の事態になりましたが、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲裁に入ったことで、プリゴジンは矛を収めました」(軍事ジャーナリスト)
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冒頭のとおり、この驚天動地の乱を6月13日発売号の本誌で予言していたのは、筑波大学の中村逸郎名誉教授だ。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、ですよ(笑)。今回の事件で、プーチン破滅へのカウントダウンが始まりました」
中村氏はずばり、“乱”の背後に黒幕がいるという。
「まずニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記と、大統領府長官のアントン・ヴァイノの2人です。とくにパトルシェフは、ウクライナ侵攻を推進してきた超タカ派。反乱を武力制圧するか悩むプーチンに対し『いまは戦争中なのだから、貴重な戦力をつぶすべきではない』と、ワグネルを擁護しました。そして最大の黒幕は、今回の“和解”の立役者であるルカシェンコです。ルカシェンコはプリゴジンと20年以上前からの知り合いで、パトルシェフやヴァイノとも親密です。今回も、プリゴジンはプーチンからの電話を拒否したのに、ルカシェンコの電話には素直に応じました」
何より、ルカシェンコ大統領はこの反乱で、誰よりも得をしている。
「ベラルーシは、ロシアの“連合国家”として併合するようにと長らく圧力を受けてきましたし、今回の無益な侵攻にも巻き込まれています。お互いを“盟友”だと思い込んでいるのはプーチンだけで、ルカシェンコの側には、ロシアに恨みが積もっているんです。プリゴジンの怒りを利用し、“事を起こさせた”可能性は十分ありますよ」(中村氏)
事実、ロシアが「譲渡ではない」として、6月に同国に配備し始めた戦術核について、ルカシェンコ大統領は27日に「我々の兵器だ」と手のひらを返している……。
政権内部の亀裂と、盟友の裏切り。“破滅”の条件はすでに揃っている。では“Xデー”はいつなのか。中村氏は「9月に、ロシア全土で火の手が上がる」と断言する。
「ロシア政府はワグネルの兵士に対し、正規兵としてロシア軍と再契約しろと迫っていますが、これに従う兵士は少ないですよ。ワグネルには、“プリゴジンイズム”を叩き込まれた地方出身者が多い。そういう兵士たちがワグネル解体によって帰郷し、9月10日の統一地方選に合わせて、全土で“反プーチン”の反乱を起こすのです。今回の乱を起こしたワグネルの部隊を、現地の市民は取り囲んで握手し、写真を撮って歓迎していました。9月の蜂起でも民衆は支持するでしょう」(中村氏)
拓殖大学海外事情研究所・名越健郎教授は、“第二のプリゴジン”がすでに登場しつつあると指摘する。
「ドンバス地方の元軍司令官で、右派ブロガーのイーゴリ・ギルキンです。彼は今回の反乱を予測していた人物で、『怒れる愛国者クラブ』という新しい組織を作り、大統領選の出馬も検討しています。これまで、反プーチンといえばリベラル派でしたが、右派勢力の中にも造反者が生まれつつあるということです。
しかもプーチンは、失脚したプリゴジンを暗殺することができないでしょう。残されたワグネル兵による弔い合戦が起こるのは目に見えていますから。国内ではプーチンの権威が失墜しすぎて、立ち直ることができないかもしれません」
一方で、防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏は、今回の反乱で危険因子だったプリゴジンを排除できたため、ロシア国内はむしろ安定した可能性があるとしつつ、別の“脅威”を指摘する。
「今回、ワグネルがモスクワまで簡単に近づくことができたことで、ロシア国内の防備の薄さが明らかになりました。5月に、ウクライナと連携しているロシア人義勇兵部隊が、ロシア西部のベルゴロド州に侵入しましたが、彼らがこうした手薄な場所を狙って、ロシアに再侵攻する可能性があります」
独裁者に残された選択肢は撤退だけだ。