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「選択的夫婦別姓」の支持率はなぜ下落したのか…背後にあった姑息なアンケート改変を元NHKアナが指摘

社会・政治 投稿日:2023.08.24 11:00FLASH編集部

「選択的夫婦別姓」の支持率はなぜ下落したのか…背後にあった姑息なアンケート改変を元NHKアナが指摘

 

 元NHKアナウンサーで作家の下重暁子氏が、日本でなかなか制度化されない「選択的夫婦別姓」について語ります。

 

 

 野田聖子元総務大臣は自民党において選択的夫婦別姓を推進してきた、いわば推進者である。私は以前、野田さんと対談し、なぜ日本で選択的夫婦別姓が進まないかについて議論を交わした。

 

 野田さんが最初に選択的夫婦別姓の導入を訴えたのは1996年2月である。25年以上も前の当時でさえ選択的夫婦別姓を求める女性は多く、すぐに改正される雰囲気があったが、自民党の反対で見送られることになった。

 

 

 このときの理由について、「男ばかりの自民党にとって関心のない政策だったから」と、野田さんは説明した。「男社会」が原因であったということだ。この実態がいまなお続いている。

 

 男性の多くは自分が名字を変えていないから、困っていない。女性の苦労が想像はできても実感していない。私のつれあいも、私の不便さはわかっても、不快さはわからない。自分の名で生きていない不快さが、男性にはわからないのだ。

 

 自民党のなかでも変化の兆しはある。夫婦別姓反対の急先鋒だった稲田朋美さんが、賛成を表明するようになった。一方で、女性議員であっても一部の議員は反対している。

 

 反対の理由として挙がるのは「家族が壊れる」「家族の一体感がなくなる」といった、「家族」を重視する意見だ。しかし野田さんは、自民党の女性議員が反対する理由について、自民党は男の政党だから、そっちへ寄ろうという気持ちや、保守的な団体への忖度などがあると、彼女たちの本音を分析していた。

 

 改めて言うまでもないが「選択的」夫婦別姓なので、同姓にしたい夫婦は同姓にすればよい。これまでと何ら変わらない。別姓も選択できるというだけの制度だ。にもかかわらず、この個人の選択が日本では認められない。

 

 選択的夫婦別姓に対する世論調査は定期的におこなわれていて、賛成は反対より多いという調査結果もある。

 

 しかし、2021年、何とも頷けない結果が出た。選択的夫婦別姓制度導入への賛成が、2017年には42.5%だったが、2021年は28.9%まで落ちたというのだ(内閣府「家族の法制に関する世論調査」)。

 

 裏にはあるカラクリがあった――。

 

 選択的夫婦別姓の支持は28%止まり。この調査結果の裏には、設問内容と順番の変更があった。選択的夫婦別姓を問う設問は、2017年のときはこうなっていた。

 

(1)選択的夫婦別姓制度の導入は不要
(婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない)
(2)選択的夫婦別姓制度の導入に賛成
(夫婦が婚姻前の名字を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない)
(3)選択的夫婦別姓は不要だが、旧姓の通称使用に賛成
(夫婦が婚姻前の名字を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきだが、婚姻によって名字を改めた人が婚姻前の名字を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない)

 

 それがこう変更されていたのだ。

 

(1)現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい
(2)現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい
(3)選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい

 

 その結果、2017年の結果では(2)の「選択的夫婦別姓制度の導入に賛成」が多くの支持を集めたのに対し、2021年の結果では、(2)の「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」が最多の支持(42%)を集めた。

 

 そもそも設問が変わっているので二つを比較しても仕方がないのだが、あえて賛成支持が減った理由を分析するなら、2021年は「通称使用」の選択肢を2番目に持ってきたことで選びやすくなったこと、また、2017年に用いられていた「かまわない」という表現を「よい」という積極的表現に変えたことで、積極的支持を避ける人が増えたと考えることができる。

 

 こうした設問の変更は世論導入につながると政府のなかでも批判が出たという。調査を担当した法務省は「割合を低くしようとする意図はまったくない」と応えているが、これをはい、そうですか、と受け止めることは到底できない。保守派への配慮があったのではあるまいか。

 

 旧姓を通称として使用することは、働く女性、いや男性も多くがやっている。すでにこれだけ広がっている旧姓の通称使用なのに、「法制度を設ける」という一文が入ることによって何が変わるのだろうか。その一言で印象を変えようする国側の姑息な考えが透けて見える。

 

 同時に、その一文で、選択的夫婦別姓を妥協してしまう国民、とりわけ女性たちに対しても、私は腹立たしさを感じる。

 

 

 以上、下重暁子氏の新刊『結婚しても一人』(光文社新書)を元に再構成しました。「うっかり」結婚してしまった元NHKアナが、50年続いた結婚生活と87年の人生を振り返ります。

 

●『結婚しても一人』詳細はこちら

( SmartFLASH )

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