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「プリゴジンは生きている」ナワリヌイ氏死後のロシア情勢を専門家が予測「プーチンの誤算で政権は窮地に」
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.03.06 14:37 最終更新日:2024.03.06 14:54
シベリアの刑務所で獄死した、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の葬儀が、3月1日にモスクワでおこなわれた。当局が厳戒態勢を敷き、多数の警察官が出動するなか、数千人の支持者が会場の教会や墓地周辺に集まった。
ロシアの人権監視団体「OVD-Info」のXには、人々が「ナワリヌイ」と叫びながら拍手したり、墓地に花を手向けたりする映像が投稿されている。また、ナワリヌイ氏の母、リュドミラさんが、息子の棺へ最期の別れを告げる場面も見られる。現在、外国に住む妻のユリアさんと2人の子どもは、プーチン政権からの弾圧を恐れ、今回のロシア渡航を断念した。同団体によると、この日までにロシア各地で拘束された弔問客は90人を超えるという。墓参する市民は、現在も後を絶たないと報じられている。
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反対派の動きは今後、どうなるのか。現代ロシア政治に詳しい、筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が語る。
「当初、葬儀の後にモスクワで数万人規模の追悼集会がおこなわれるという話があり、そこでナワリヌイ氏の支持者らと治安部隊が衝突し、流血騒ぎになる可能性も想定されていました。その事態は避けられましたが、次に緊張が高まるタイミングは、3月15日から17日におこなわれる大統領選挙です。支持者らは、どこかで軍事的な混乱を生じさせて、選挙に影響を与えようと画策しているかもしれません。
じつは私は、民間軍事会社『ワグネル』のプリゴジン氏は生きていて、ロシア社会の混乱に乗じて、表に出てくるかもしれないと思っています。プリゴジン氏は、ウクライナで生きているという情報があります。私は以前から、プリゴジン氏生存説を主張してきました。プリゴジン氏は2023年8月末、飛行機が墜落して死んだとされていますが、そのときから私は『3月の大統領選に向けて姿を消しただけではないか』と言ってきました。プリゴジン氏の遺体は確認されていないし、乗っていた飛行機はトラブルを頻繁に起こしていた。出発も6時間遅れていましたし、そんな危ない飛行機に乗るはずがないと思っていたんです。
ナワリヌイ氏の死を受けて、やはりウクライナとの戦争は許せないという声が強まる可能性は高い。『ロシアン・フィールド』という会社による世論調査の結果が注目されていて、60%の人が『この戦争を止めておけばよかった』と回答しています。また、別の世論調査では、ロシアの半分を超える人たちが『貯金はまったくない』と答えているんですね。戦争により経済、そして家計が逼迫している。このままプーチン政権が続いていいのか、という不満に火がつく可能性があります。その火をつけるきっかけになったのがナワリヌイ氏の死であり、さらに、そこにプリゴジン氏、あるいは氏を名乗る姿格好が似た人物が現われるんじゃないかという見方が、一部でなされています」
ナワリヌイ氏は、本当に自然死だったのだろうか?
「私が知り得た限りですが、シベリアの極北の刑務所に移送されたナワリヌイ氏は、刑務官に対して反抗的な態度を取ったり、不満を言ったり、内部規律を破ったりすることが多かったようです。そのため、刑務所と、そこから離れたところにある懲罰房との間を行ったり来たりしていたようなのです。懲罰房に連れていかれる途中、ナワリヌイ氏が反抗的な態度を取ったため、刑務官が殴ったとされています。刑務官はかつてのKGBの暗殺部隊出身で、ダメージを効果的に与える殴り方の訓練を受けていたようです。
ナワリヌイ氏が殴られたとき、周囲の気温はマイナス30度前後でした。倒れたナワリヌイ氏は、その極寒の中で2時間半、放置されたのです。そこで血液が凍ってしまい、死に至ったと思われます。ロシア当局は死因を『血栓』としていますが、血液が凍って死に至ったということなのです。
じつは私、この刑務所のある村に立ち寄ったことがあります。ナワリヌイ氏が収容された1月11日と同じころです。そのときの気温はマイナス45度。もはや呼吸が難しい。大気と体内の温度差が70度近くあるんです。鼻では呼吸ができず、口で空気を取り込むしかなくて、私の鼻のてっぺんが真っ白になったんですよ。血流を戻すため、同行したロシア人が私の鼻をちょっと叩いたんです。やさしくしたつもりだったのでしょうが、私には激痛だった。その体験を踏まえて言うと、ナワリヌイ氏が顔でも殴られれば気絶してしまうというのはよくわかります。
ロシアには死刑制度がありません。ソ連時代は死刑がありましたが、崩壊後、民主化の道を歩むために制度をなくしたのです。しかし、プーチン政権になって、死刑は復活させない代わりに、毒殺や銃殺、そして今回のように凍死させる方法が加わったのだと思います。ですから、ナワリヌイ氏をシベリアの刑務所に送ったこと自体、死刑に等しいと思います」
ナワリヌイ氏の死は2月16日。大統領選のちょうど1カ月前だ。
「プーチンは、反体制派に対して断固とした姿勢を見せたかったのでしょう。2月の初めには、ウクライナ侵攻に反対する候補者の登録が、中央選管によって却下されました。さかのぼって2023年12月にも、同じく反戦派の候補の登録が認められませんでした。結果、プーチン大統領と政権支持派の候補しかいません。
プーチンは当選確実だと言われていますが、選挙当日は投票用紙にナワリヌイ氏の名前を書こうとか、全国で一斉に投票所に押しかけて行こうという呼びかけがあるんです。集会と違って、投票所へ入るのに許可はいらないわけです。反体制派が投票所に集まって混乱を起こし、放火したりする事態を恐れ、プーチンは投票1カ月前に、『それは絶対に許さない』という姿勢で、ナワリヌイ氏を死に追いやったのだと思います。ここにきて、反体制派を一掃できると考えていたプーチンに誤算が生じ、政権は窮地に立たされていると思います」
中村氏は、大統領選挙に向けて「『プリゴジンの乱』以上の危機がプーチンに襲い掛かろうとしている」と見る。さらに、「ユリアさんとプリゴジン氏がタッグを組む動きも出てくるかもしれない」とする。
( SmartFLASH )