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男性の育休取得率は17%…日本の育休制度は世界一なのになぜ男性は活用しないのか
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2024.03.30 11:00 最終更新日:2024.03.30 11:00
2021年にユニセフ(国際連合児童基金)が発表した各国の保育政策や育児休業政策を評価し順位付けした「先進国の子育て支援の現状」(OECD、EU加盟国対象)において、日本の育児休業制度は41か国中1位だった。
制度上、日本は父親の育児休業が世界で最も長く、父親と母親に認められた期間がほぼ同じ長さである唯一の国だ。
しかし、世界一の制度を持つ国でありながら、日本の男性の取得率は17.13%と、近年伸長しているとはいえ、まだまだ低い。
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各国、制度や算出方法が異なるものの、ドイツでは2019年の父親の育休手当受給率は43.5%と過去最高を記録した。アイスランドの男性の育児休業取得率は74%という統計もある。アイスランドは、世界ジェンダーギャップ指数が14年連続1位である。
一方、日本は146か国中125位で、先進国の中では最低レベル、アジア諸国の中では中国や韓国、ASEAN諸国より低い結果だった。
女性の両立支援制度は、以前に比べるとかなり整えられてきた。しかし、現状ではかろうじて就業を継続できるものの、家事育児負担が大きく、思うように活躍できない女性たちもいる。
そのため、女性への家事・育児負担の偏りを減らし、社会での活躍を推進させる一助として、男性にもこの世界一の育児休業制度を活用させようと、様々な手立てが打たれている。
企業によっては、男性育児休業取得率の目標を100%と設定し、まずは短期間からの取得を推奨、そこから徐々に期間を長くさせようと試みたり、一定期間有給化することで育児休業取得による収入減への不安に対応したりしている。
また、誰もが育児休業を取得しやすくするため、育児・介護休業法が改正されている。
2022年4月から、企業(事業主)には制度の周知や個別の意向確認等が義務付けられた。10月からは2回に分割して育児休業を取得することが可能になった。また、育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能な「産後パパ育休」も創設された。
2023年4月からは、従業員数1000人超の企業に、育児休業等の取得の状況を年1回公表することも義務付けられた。
このように、周囲の掛け声は大きくなる一方だが、職場の当事者たちはどのように思っているのだろうか。
2022年に行った「21世紀職業財団 ダイバーシティ&インクルージョン推進状況調査(以下財団D&I調査)」において、将来的に子どもを持つ予定がある男性に、今後育児休業を取得したいと思うかどうか尋ねたところ、20代では83.2%、30代では77.4%、40代は67.8%の人が「取得したい」と回答した。いずれの年代でも多くの男性が育児休業取得を希望している。
同調査で、企業規模別に男性が育児休業を取得しやすいかどうかを調べたところ、301人~500人規模の企業では「短期間でも取得しにくい」が46.5%となっている。また1万1人以上の大企業においても、「短期間でも、長期間でも取得しやすい」という割合は27.8%にすぎない。その結果が、日本の男性の取得率17.13%である。
「現在、育児休暇の取得が国の取り組みとして推進されているが、大企業でない限り、まだ企業の余力がない。現在の職場では男性が育児休暇を取得した事例もなく、取得できるような雰囲気ではない。同様の状況にもかかわらず、妻に育児休暇と職場のキャリアに負担をかけ、心苦しい」(男性・電気、ガス、熱供給、水道業・末子0歳)
この回答は、ある男性がWebアンケートに書いた自由記述である(財団ミレニアル世代夫婦調査)。「大企業ではない限り、まだ企業の余力がない」という記述からは、人員不足等の状況が推察される。
しかし、育児休業は事前に準備が可能で、計画的に取得できるものである。そういった職場では、従業員が病気になって一時的に職場を離れる場合、どう乗り切るのだろうか。
大企業だからといって、男性が育児休業を取得できているとは限らない。女性は、出産のために、職場の雰囲気がどうであれ、休まざるを得ない(どうしても休めない人は退職した)。一方、男性は、出産するわけではないので、職場に軋轢を生じさせてまで育児休業を取りたくない、という気持ちもあるかもしれない。
「現在は妻に負担が大きく傾いてしまっている。仕事も遅くなることが多く、会社の仕組みで残業が当たり前になっている」(男性・製造業・末子1歳)
「子どもがいるからといって残業がなくなるわけではないので、男性が家事や育児をするためのハードルが高い」(男性・情報通信業・末子3歳)
「会社が仕事配分の要望を聞くのではなく、配慮して減らしてほしい。こちらからは言いづらい」(男性・公務・末子2歳)
「定時で帰ることに対する抵抗がある雰囲気を変えたい」(男性・公務・末子4~6歳)
残念ながら、「残業が当たり前になっている」職場や、「定時帰りへの抵抗感」のある職場は、まだ多くあるだろう。財団D&I調査の「あなたの職場では長時間仕事をする人が高く評価されると思いますか」という問いに対して、30代男性では47.5%の人が「そう思う」「ややそう思う」と回答している。
日本では、長時間働くことが肯定されている現状がある。逆にいえば、さっさと仕事を切り上げるのは、「仕事を疎かにしている」「やる気がない」と思われるリスクがある。
子育てが理由で、仕事配分について要望することを躊躇させるような雰囲気も加わり、結局、夫は平日に家事・育児を担うことはできず、妻が家事・育児に時間を割くことになってしまう。長時間働くことを肯定する(否定できない)、職場風土がネックになっている。
しかし、わずかにでも「雰囲気を変えたい」と考えている男性が出現していることは注目に値する。この調査研究の対象としたミレニアル世代は1980年から1995年に生まれた人たちである。
ミレニアル世代は、中学校(1993年から)でも高等学校(1994年から)でも家庭科を男女共修で受けた、という背景を持っている。また、募集、採用、配置、昇進の女性差別が禁止された1999年の男女雇用機会均等法の第1回目の改正後に就職している。
上の世代と比べると、教育や法律における男女平等が進んだ環境で育っている。彼らが上の世代よりも、家事・育児は男女ともにやった方がよい、という考えを持つのは自然の流れであろう。
実際、ミレニアル世代を対象にしたアンケート調査でも、子どもが生まれる前の未就学児の子どもの育児における夫婦の役割についての考えは、「妻も夫も同じように行うべき」と回答した男性が67.5%に上っており、その割合は女性よりも高い。
上の世代よりも男女平等の意識を持ち、夫婦で子育てしたい、育児休業を取得したい、と考えている人たちが、育児休業を取得するにあたっての職場の軋轢や、定時には帰りづらい雰囲気を乗り越えて、少しずつ行動し始めている。
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以上、光文社新書の近刊『〈共働き・共育て〉世代の本音 新しいキャリア観が社会を変える』(本道敦子・山谷真名・和田みゆき著)をもとに再構成しました。現代の重要課題となった、男性育休や働き方改革等、社員のウェルビーイングについて考えます。
●『〈共働き・共育て〉世代の本音』詳細はこちら
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